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Electronic TheaterはSIGGRAPH ASIAの華!世界中から集まったコンピュータアニメーションの中から厳選された珠玉の15作品を解説

作成者: AICU Japan|2024/12/21 20:04:50 Z

2024年12月3~6日に開催されたSIGGRAPH Asia 2024。
グラフィックに関わるあらゆる最新の研究発表や制作事例など盛りだくさんな内容でした。
中でもComputer Animation FestivalのElectronic Theaterは、世界中から集まったCG映像の中から厳選された作品がスクリーニングされる貴重な機会で、上映されることはとても名誉なことでCG映像制作に携わる者にとっては大きな目標となるフェスティバルです。

初日のElectronic Theater上映前のPre-Showで行われた、その場でコードを書いて映像を制作するライブコーディングの様子 ©SIGGRAPH Asia

本稿では今回上映された15作品について解説します。
まずは、公式トレーラーからどうぞ。

それでは解説を始めます。
なお、紹介順は公式トレーラーの順番で、
・タイトル
・動画
・公式ホームページの作品概要
・解説
という流れで進めます。

Au 8ème Jour

世界を創造するのには7日かかったが、そのバランスを崩すのにはたった1日しかかからない…。


生命の躍動にあふれる美しい世界が、黒い何かによって浸食され崩壊へと向かっていく。動物や植物や地形までも全てが毛糸と布で表現されたビジュアルが秀逸なこの作品は今回の最優秀賞(Best in Show Award)を受賞しました。タイトルの「Au 8ème Jour」はフランス語で「8日目」という意味で、制作したのはフランスの学校であるPôle IIID(現:École Piktura)の学生です。同校は、2021年のSIGGRAPHのElectronic Theaterにおいて毛糸の編みぐるみのキャラクターを使った「Migrants」でBest in Showを受賞しているのですが、本作では毛糸の表現がさらに洗練されていて実写の様にしか見えないです。なお、繊細で情緒的な糸の動きや地形の生成などには、シミュレーションが得意なSideFX社の3DCGソフトウェアの「Houdini」が全面的に使われています。

Alone

遠い銀河への長い宇宙旅行の間、一体のロボットが新しい惑星の移住者たちが入った冬眠カプセルを熱心にお世話をして彼らの生命を維持しています。ある時、冬眠中の人間の夢を観察したロボットは寂しさを覚えて、予備の部品から新しい仲間を組み立てました。一人ではなくなったロボットは仲間と充実した時間を過ごしますが、突然、深刻なトラブルが発生して重大な決断を迫られます。人間たちの命を守ることを優先するか、新しい友達を救うか。


美しい色彩にあふれたハートウォーミングなこの作品は、オーストラリアのシドニー工科大学(UTS)と同じくオーストラリアのVFXスタジオのアニマル・ロジックが提携して2017年に設立されたUTSアニマルロジックアカデミーのAnimation and Visualisation(アニメーションおよび視覚化)の修士課程の学生によるプロジェクト。クリアな質感と繊細なライティングがとても印象的な本作は、41人の学生が教官の指導の下で約7か月をかけて制作されたそうです。

Coffee Brake

昼下がりのオフィスでゲイリーとキャロルは魔改造して高速マシンと化した椅子に座りながら3時のコーヒーブレイクを今か今かと待っています。狙いは、たった 1 つのドーナツ。時計が3 時を知らせると、二人は全速力でドーナツをめがけて突進し、最後の1つをめぐる熾烈な競争が始まります。ゲイリーとキャロル、先にたどり着くのはどっち?

こちらも『Alone』と同じくUTSアニマルロジックアカデミーのAnimation and Visualisationの修士課程の学生による作品。ハチャメチャな展開でノリだけで押し通すこのギャグアニメーションは、オープンソースの3DCGソフトのBlenderとこれに組み込まれている手書きの描画ツールのGrease Pencilを使用した”the emerging visualisation technologies project(新興視覚化技術プロジェクト)”という課題の成果物で、8週間で制作されました。3Dの見た目にカートゥーン的な2Dのエフェクトを加えたルックがとてもユニークです。

The Strange Case of the Human Cannonball

https://www.facebook.com/reel/717906110492141

ある朝、6人しか住んでいない村の広場で謎の男が倒れているのが発見されます。6人とも男が誰なのかどこから来たのか知りません。6人は、この見知らぬ男が目を覚ます前に迅速に行動して彼をどうするかを決めなければなりません。

エクアドルのINQUIETO FILMSのBeto Valenciaさんの監督作品。カリカチュアライズされたキャラクターたちが繰り広げる大仰な芝居は笑いを誘いますが、その奥には移民や外国人嫌悪に対する暗喩の様な社会的なメッセージが込められている結構重いテーマの作品です。制作にあたってはエピックゲームズのゲームエンジンであるUnreal Engineを使用してリアルタイムレンダリングを行っている様です。最近はゲームエンジンの表現力の向上に伴い、これらを活用した映像制作の事例が増えてきています。これは、ゲームエンジンの持つリアルタイム性は映像を作成する上で大きなアドバンテージになるためで、この様な制作スタイルの作品は増えていくのではないかと思います。

Scrubby

スクラブビーはお母さんの毛皮の中で安全で暖かい生活を送っていましたが、ある時、お母さんの毛は抜け始めてしまいます。

キラキラしているのに硬さを感じさせず、むしろふんわりとした柔らかさを感じさせるキャラクターの質感表現を実現している本作は、Electronic Theaterの常連校の一つとして有名なドイツのバーデン・ヴュルテンベルク州立フィルムアカデミーの学生作品。時間とともに変化する親子関係、守られていた者が守る側になったときの戸惑いと決意を内包したちょっと切ないストーリーは監督のPaul Volletさんの実体験に基づくものだそうです。ちなみにタイトルの「Scrubby」ですが、毛糸で編んだたわしのことを意味する様です。

Prends Chair

太りすぎのティーンエイジャーのヴェナンスは、体重に関して毎日の様に近所の人からからかわれ、家族からも叱責を受けている。その様な仕打ちに苦悩する彼の体にある変化が起こり始める...

本作を監督したArmin Assadipourさんは、フランスの2Dのアニメーターだそうで少なくとも6年くらい前からこの短編ホラーの制作の準備を始めていたようです。ペン画調の作品ですが、調べた限りでは背景とカメラワークに関しては一旦3DCGでレイアウトを取ってから筆入れしている可能性が高いです。キャラクターについてはおそらく2Dのドローイングだと思うのですが、動きに対する崩れが少ないので3DCGで当たりを取っているかもしれません。近年では背景制作に3DCGを活用する手描きの作家さんをよく見かける様になってきていて、パースの正確さがもたらすリアリティが作品に説得力を加えています。なお、題名はフランス語で「肉を摂る」という意味で内容を結構ダイレクト伝える様なタイトルになっています。

Fire

(本編[1:04:47~])
火事が近づくと時間が止まったように感じる。

フランス アヴィニョンの単科大学であるEcole des Nouvelles Imagesの6人の学生による卒業制作。注目すべきは家具や料理といった映像に登場する全てのモデルが非常に正確かつ緻密で存在感にあふれていることです。これにより山火事の炎によって変形していく様子との落差を大きくし、見る人にカタストロフを実感させます。また、ライティングの移り変わりも絶妙で、柔らかな日差しが迫りくる山火事によって強烈な赤に染まっていき、ラストは冬の寒々しい寒色で締めています。なお、この作品は、特別賞(Honorable Mention Award)を受賞しています。

BRIDGE my little friends

https://www.youtube.com/watch?v=t94LtxGOA9U&t=27s

(トレーラー[0:27~]))
「オレがシロに会わせてやる。約束だ!」猫のジンは、愛犬シロを失って悲しむムギにやくそくします。ハトとリスをさそい、ジンの大作戦が始まります!

この作品は、文化庁が推進するアニメーション人材育成調査研究事業である「作品制作を通じた技術継承プログラム」のあにめのたね2024で制作した作品の中の一つで、StudioGOONEYSが受託制作しました。本作は日本のトラディショナルなアニメの表現を3DCGでいかに表現するか?という課題に取り組んだもので、昭和のアニメの様な懐かしい絵柄のキャラクターが現代的なカメラワークのなかで違和感の無い繊細な演技をみせる心温まる作品に仕上がっています。

Le Charade

https://vimeo.com/lecharade 

時は1950年代。場末のダイナーで孤独なパントマイム芸人が最後のパフォーマンスと妄想の中の友人と別れを告げようとしている...
上映中は、「物凄くリアルなCGだなあ」と感心して見ていたのですが、調べてみたところ、この作品は3DCGアニメーションではなく実物のパペットとセットを使って人の手で動きを付けた本物のストップモーションのアニメーションでした。「CGの祭典だから」と先入観を持つのはいけませんね。監督のErika Totoroさんは15歳のころからストップモーションアニメーションの制作を始めたそうで、本作は在籍していた米国のサバンナ芸術工科大学の卒業制作なのですが、実制作においては学内の様々な学科の学生からなるストップモーションアニメーションのクラブのメンバーたちと協力しながら制作したとのことです。「伝統的なストップモーションのアニメーションがなぜCGの祭典であるElectronic Theaterに?」という疑問が浮かびますが、主人公の顔の55種類の表情の変化を作成する際にCGソフトで3Dモデルを作成してそれを3次元プリントしたり、編集時に汚れを足したりなどのデジタル技術を使っているところが評価された様です。ちなみに題名を和訳すると「身振り手振りで言葉あてをする遊び」になります。

Amazing Dinoworld 2

https://www.youtube.com/watch?v=_x2AQxYii9U

https://www.youtube.com/watch?v=_x2AQxYii9U

(ダイジェスト)

前編:近年「異形」で「超巨大」な恐竜が、南半球から続々と見つかっている。最大級の陸上生物プエルタサウルス、肉食恐竜の最強候補マイプなど、新たな恐竜たちをご紹介!
後編:近年見つかり始めた「恐竜が大災害を生き延びた可能性」。巨大隕石衝突後の世界を、プエルタサウルスを通じて描き出す!
日本のNHKが放送した『NHKスペシャル 恐竜超世界2』の『前編 巨大恐竜の王国 ゴンドワナ大陸』と『後編 恐竜絶滅の“新たなシナリオ”』の映像です。NHKは昔から定期的に恐竜をフィーチャーした番組を制作していて、常に最新の研究結果を基にして番組を制作し、それに合わせて映像表現もアップデートされています。例えば、現在では鳥類の様な恐竜がいたことや恐竜は温血だったのではないかという説が唱えられる様になっていますので、今回はそれらを反映させて、羽毛のある恐竜や雪の下にある草を食べる恐竜の様子が描かれています。また、恐竜を絶滅させたとされる小惑星の衝突とその後の地球の様子も表現が更新されています。以前のNHKスペシャルの恐竜の映像も素晴らしかったのですが、今回はさらにCGの恐竜のリアリティが増していて背景との調和もレベルアップしています。

Courage

(トレーラー)
レースに臨んだオリンピック選手のアンナは、自分が出遅れたことに気付き、二度と周りを失望させないために優勝を目指して力を振り絞って走る。しかし、限界を超えて自分を追い込むうちに彼女は燃え尽きてしまい...
最優秀学生プロジェクト賞(Best Student Project Award)を受賞した本作を制作したのは、北フランスにあるCGの専門学校のRUBIKA(旧:Supinfocom)で、Electronic Theaterの常連校の一つとして有名です。静止画だけ見ると絵画の様にしか見えないのですが、キャラクターも背景も全て3DCGで作られています。この質感を出すためにはモデルに絵画調のテクスチャを貼った上でポストエフェクトでさらに筆塗り感を強化するエフェクトが加えています。本作の見どころはダイナミックな構図と躍動あふれるアンナの動きで、コンセプトアートの段階でキッチリと方向性を固めてからそれを3DCGで再現しています。なお、タイトルの”Courage”は「勇気」という意味です

Le Cantique des Moutons

(トレーラー)
深酒したフランクは夜明けのアルプスの小屋の外で目を覚ます。二日酔いを治すには迎え酒をするのが一番だと地下室に降りていくと、そこにあった酒は全て無くなっていた。いったい誰が盗んでいったのか? もしかしたら言葉を話す羊のエルヴェが答えを知っているかもしれない...

こちらもフランスのRUBIKAの学生作品で、題名の日本語訳は「羊の歌」で、フランスらしい不条理の塊のような作品です。かなり個性的にデフォルメされたキャラクターですが、服などの質感は本物の様なリアリティがあり、そのギャップが作品の非現実的な世界観にマッチしていて、とても良い効果を生んでいる様に思います。本作は会話劇なのでフランス語が分からないと残念ながら正確なメッセージは受け取れないかもしれませんが、映像だけでもフランクが陥った狂気を感じることができると思います。

The Name

(本編)
ニーナという自分の名前に葛藤し疎外感を抱く若いトランスジェンダーの少年は、母親から自分のアイデンティティを隠そうとして自分自身を二つに分けて二重生活を送っていた。

SIGGRAPH Asiaはコンピュータグラフィックスに関する学会なのでElectronic Theaterにおいても技術的に優れたものや表現力に秀でたものが上映されるのですが、近年においてはそれらに加えて社会的なメッセージを含んだものも選ばれる様になっています。本作もその一つでElectronic Theaterの常連校の一つである、GOBELINS Parisの学生作品です。一見すると普通のペイントのアニメーションに見えますが、よく見るとキャラクターの背後に薄い影が落ちていて画面が多重のレイヤーで構成されていることが分かります。 このちょっと浮き出た感じを出すことでキャラクターと背景が同じトーンでもぺったりした印象にならない様に工夫がされています。あと、ラストに出てくるメッセージですが、和訳すると、「(赤ちゃんの時)私があなたに名前をつけたのはあなたが声をもっていなかったからです。今、あなたは自分の声を見つけたのですから、あなたは自分の名前を世界に伝えるのです。」となります。これはLGBTQ+団体を率いるChannyn Lynne Parkerさんのお母さんが彼女に伝えた言葉のようです。

Sopa Fria

(トレーラー[フランス語バージョン])
家庭内暴力の被害者である女性が結婚していた当時を振り返り、家庭を破綻させない事がいかに困難であったかを思い出す。
審査員特別賞(Jury’s Special Award)を受賞した本作のタイトルはポルトガル語で「冷めたスープ」という意味になります。監督のMarta Monteiroさんはポルトガルのイラストレーター兼アニメーションディレクターでカラフルな紙を使用したコラージュ技法で作品を作り続けています。本作も恐らく写真や印刷物などをコンピュータに取り込んでパーツごとに切り分けて彩色していると思われます。また、全ての登場人物は顔の無い細い線画で描かれていて、解像度がまちまちで統一感の無いざらっとした背景とのコントラストが心の通っていない空虚な関係をより際立たせると同時に、誰にでも起こりうることであることを示唆している様に感じます。彼女の独白を基に話が進んでいくため言葉が分からないとその心情に深く触れることは出来ないかもしれませんが、突然噴出した水に溺れそうになったりなどの演出で彼女の閉塞感を視覚的に知ることが可能だと思います。

ところで、ここまで読んで冒頭に「15作品」とあるのに公式トレーラーには14作品しかなかったことに気付きましたか?
その足りない1作品はこれです。

Godzilla Minus One

(トレーラー)
生きて、抗え。
焦土と化した日本に、突如現れたゴジラ。
残された名もなき人々に、生きて抗う術はあるのか。
今年の米アカデミー賞の視覚効果賞を受賞した「ゴジラ-1.0」もElectronic Theaterで上映されました。全世界で大ヒットした本作についてはもはや説明は不要でしょう。なお、「ゴジラ-1.0」についてはElectronic Theater以外にFeatured SessionExhibitor Talksなどで講演があり、今回のSIGGRAPH Asiaの目玉ともいえるタイトルだったと言えます。

https://twitter.com/AICUai/status/1864201826045997226

https://twitter.com/AICUai/status/1864201829225254922

 

AICU編集部の考察

それでは、最後に今回の傾向について考察してみます。
まず、ジャンル別の入選作品数
短編アニメーション(学生作品):9
短編アニメーション:4
VFX:2

これはSIGGRAPH AsiaのElectronic Theaterに限らず、どの映画祭にも言えることなのですが、ご覧の様に学生の短編アニメーションが圧倒的に多いです。これはプロの作家の場合は年単位で作品に取り組むのに対し、学生の場合は最終年次に必ず卒業制作を行うので単純にエントリーして来る作品数が桁違いに多いからです。また、常連校と言われるところは、映像作りのノウハウが蓄積されていて一定以上のクオリティが担保されていることも大きいです。また、常連校の多いフランスでは、以前はどの学校もいわゆるピクサータイプと言われるルックの作品が多かったのですが、近年では他校との差別化を図るためか色んな絵柄に挑戦するようになってきていて、それが作品の作家性を押し上げている様に感じ、今後もこの傾向は続くだろうなと感じています。また、全てがエンターテインメント系の作品で学術系の映像がなかったのも特徴と言えるかもしれません。個人的にはVFXの作品をもうちょっと見たかったなと思っています。
次に、国別の入選作品数
フランス:6
日本:3
オーストラリア 2
エクアドル:1
ドイツ:1
アメリカ:1
ポルトガル:1

前述の様に常連校の多いフランスが最も多くの作品を入選させています。ただ、実際に制作した人は必ずしもフランスの人とは限らないということを念頭に置いてもらえればと思います。以前、GOBELINS Parisの学生さん2人にインタビューしたことがあるのですが、1人はロシア出身でもう1人はメキシコ出身でした。なぜフランスの学校を選んだのか?と聞いてみたところ、レベルの高い教育が受けられるからというのが理由だそうです。良い作品を送り出せばよい環境を求めて志を持った学生が集まる、というある種の好循環がフランスのCGを教える教育機関に起きているのかもしれません。あと、2番目に多い日本は、短編アニメーション、テレビ番組、長編実写映画ともっともバラエティーに富んだラインナップなっていて、日本のエンターテインメント映像の幅の広さを感じることが出来てとても良かったと思います。

以上、Electronic Theater上映の15作品の解説でした。
AICUは引き続きSIGGRAPH Asia 2024のレポートを掲載していきますので、これからもお楽しみに!
(取材協力:Koelnmesse Pte Ltd)

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#SIGGRAPHAsia2024 #Electronic Theater

https://note.com/aicu/n/n82c75c8c2cc5

https://note.com/o_ob/n/n5d2dd1cf52d3

Originally published at https://aicu.jp/ on Dec 21, 2024.