2025年9月25日、東京ゲームショー2025(TGS2025)の初日ビジネスデイに幕張メッセを訪れました。秋晴れの爽やかな天候に恵まれたこの日、会場には例年以上の来場者が詰めかけ、国内外のクリエイターや業界関係者で賑わいを見せていました。
今年は特にセキュリティ体制が大幅に強化され、手荷物検査や身分証明書の確認が厳格に行われるなど、入場までに例年より時間を要しましたが、その分安心して会場内を回ることができました。
個人クリエイターの皆さんにとって最も注目すべき点は、AI技術の実用化が急速に進んでいることです。学生作品から企業展示、そして新設されたAIテクノロジーパビリオンまで、至る所でAIとゲーム制作の融合を目の当たりにすることができました。
本レポートでは 生成AI解説系VTuber道草ざすこ(X@zasuko_michiksa)が、特にテクノロジー系のクリエイターや個人開発者の方々にとって参考になる展示内容を中心にお伝えします。
会場入口付近の「ゲームアカデミーコーナー」は学生出展エリア。毎年革新的なアイデアに溢れていますが、今年は特にAI技術を活用した作品が目立ちました。全国各地の大学から集まった学生たちの作品は、個人クリエイターにとって大きなヒントを与えてくれるものばかりです。
地図情報×写真×LLMによるクエスト生成システム
最も印象的だったのは、LLM(大規模言語モデル)を使った投稿共有型ノベルゲームです。このシステムは、実際の地図情報とその場所で撮影した写真を組み合わせて、AIがリアルタイムでクエストを生成する仕組みになっています。QRコードからアプリケーションを起動し、実際に体験することも可能でした。
https://artemis.abe-lab.jp/~hidenao/LocusLore2025/index.html
江戸川区と連携したプロジェクトでは、江戸川区の公式LINEから発信される情報を基にAIがクエストを自動生成し、地域活性化とゲーム制作を融合させた意欲的な取り組みも見られました。スマートフォン向けのRPG風インターフェースで展開されており、個人開発者でも参考にできる実装レベルでした。
学生作品の真骨頂とも言える、独創的な入力デバイスを使ったゲームが今年も多数展示されていました。これらのアイデアは、個人クリエイターがゲーム制作で差別化を図る際の重要なヒントになります。
最も注目を集めていたのが、実際の米俵を肩に担いで遊ぶリズムゲームです。米俵の前後に異なる色の二次元コードが設置され、画面の指示に従って赤面または青面をカメラに向けるタイミングゲームとなっています。
この米俵担ぎリズムゲームは会場でも特に注目を集めており、観客からは笑い声が絶えず、そのシュールな光景が会場全体を盛り上げていました。見た目のインパクトとは裏腹に、米俵は意外に軽く設計されており、実際にプレイしてみると見た目ほどの負担はありません。
「誰でも笑いながら楽しめる」という仕組みが秀逸で、右肩、左肩、小脇に抱えるなど、担ぐ位置を変えながらリズムに合わせて動作する様子は、プレイヤーだけでなく見ている側も十分に楽しめる優秀なゲームデザインでした。
大型の体温計型コントローラーをマットにこすりつけて温度を上げ、お母さんに見つからないようにズル休みを成功させるゲームも秀逸でした。お母さんが様子を見に来るタイミングで自然な体温測定のポーズを取る必要があり、適切な温度調整とタイミングが勝敗を分ける仕組みです。身近な道具をコントローラーにするアイデアは、個人開発者でも実現可能な範囲で参考になります。
ハムトレ:ハムスター用の回転台をモチーフにした、回転力加減が重要な運動ゲーム
船舵輪ゲーム:接触センサー付きの舵輪で、光っている部分を握って操縦する障害物回避ゲーム
缶蹴りゲーム:加速度センサー内蔵の缶を振って蹴って、的当てを楽しむ物理的体感ゲーム
企業ブースエリアでは、例年以上に豪華な造作物と体験型展示が目立ちました。特にSNSでの情報拡散を意識したフォトスポットの充実ぶりは、個人クリエイターがプロモーション戦略を考える上で大いに参考になります。
スクウェア・エニックス:人気IP世界観の戦略的活用
スクウェア・エニックスブースでは、ドラゴンクエスト1のラスボス「竜王」との記念撮影ができるグリーティングスポットが大人気でした。
実際に体験してみましたが、キャラクターとの自然な交流ができる演出は見事でした。ファイナルファンタジー14の人気マウント(=プレイヤーキャラクターが乗って移動できる「乗り物」)「デブチョコボ」に実際に乗って撮影できるフォトスポットも用意されており、ファンサービスの充実ぶりが印象的でした。
ドラゴンクエスト7のプロモーション用フィギュア展示や、ファイナルファンタジータクティクスの世界観を再現したフォトスポットなど、IPの価値を最大限に活用した展示設計は、クリエイターが自作品のプロモーションを考える際の参考になります。
セガアトラスブースでは、「龍が如く」シリーズの神室町入口ゲートを忠実に再現したフォトスポットが設置されていました。当日は声優の大塚明夫さんが登壇するスペシャルイベントも開催され、ファンとの距離を縮める取り組みが印象的でした。
カプコンブースでは、バイオハザード9やモンスターハンターストーリーズ3の大規模な展示が行われていました。特にモンスターハンターの体験コーナーでは実際のゲームプレイが可能で、造作物展示と合わせて作品世界への没入感を高める工夫が随所に見られました。中でも印象的だったのは、モンスターハンターワイルズの等身大ハンターとオトモアイルーのフィギュア展示で、その迫力ある造形は多くの来場者の注目を集めていました。実際のゲーム内での装備やディテールが忠実に再現されており、シリーズファンにとって撮影必須のフォトスポットとなっていました。ストリートファイターシリーズのe-スポーツイベントの出展も含め、長期IPの価値を継続的に高める手法は参考になります。
今年特に目立ったのは、海外ゲームパブリッシャーやディベロッパーの大規模出展です。Steam向けのPC游戲やスマートフォン向けアプリケーションの展示が大幅に増加し、展示ブースの造作も非常に豪華になっていました。
『勝利の女神:NIKKE』などのタイトルで話題となっている「リアル10連ガチャ」のような、高品質なコスプレイヤーを活用したプロモーション手法が多くのブースで採用されていました。コスプレイヤーの技術レベルやコスチュームクオリティが年々向上しており、キャラクターの魅力を伝える効果的な手段として確立されつつあります。
会場外ではSUZUKIとストリートファイターののコラボレーションによるバイク試乗体験も実施されていました。ストリートファイターのジュリによる「罵倒ボイス」が聞けるという一風変わったプロモーションは、キャラクターIPの新しい活用方法として注目に値します。
今年新設されたAIテクノロジーパビリオン(ホール9-11の別館エリア)は、個人クリエイターにとって最も重要な展示エリアでした。
AI技術をゲーム開発やエンタメ分野に実装した具体的な事例を多数確認できました。
パビリオン内で最も多かったのは、デジタルサイネージとAI技術を組み合わせたソリューションです。キズナアイを使用したデジタルサイネージでは、カメラによる人物動作検知機能を搭載し、複数の応答パターンから適切な反応を自動選択する仕組みが実装されていました。
フェイストラッキングとモーショントラッキング技術を活用したアバター接客システムも展示されており、リアルタイムでの顧客対応が可能な段階まで技術が進歩していることが確認できました。
AIテクノロジーパビリオンで最も注目を集めていたのは、間違いなくスタジオ51株式会社による「オンデバイスAI」技術でした。この技術の最大の特徴は、サーバー通信なしでAIキャラクターとの自然な対話が可能な点です。テーブルトークRPGのゲームマスターをAIが担当し、プレイヤーの言葉を元に筋書きのないドラマを紡ぎ出します。
展示されていたデモンストレーションでは、AIキャラクター「ミライア・リンクス」がプレイヤーとリアルタイムで自然な会話を行い、ゲーム進行を動的に調整する様子を確認できました。従来のゲームAIとは一線を画す、本当の意味での「知的な相手」としての応答品質は驚異的です。特に印象的だったのは、プレイヤーの発言内容や感情状態を理解して、それに応じたストーリー展開を即座に生成する能力です。
通信環境への非依存:インターネット接続なしで完全動作、どこでも安定したAI体験
高いプライバシー性:ユーザーデータがローカルで完結、個人情報の外部流出リスクゼロ
リアルタイム応答:通信遅延なしの自然な対話、まるで人間と話しているような応答速度
カスタマイズ可能:ゲーム状況やプレイヤーの好みに応じた適応的サポート
低コスト運用:サーバー費用不要、個人開発者でも導入可能な経済性
この技術が個人クリエイターにとって特に重要な理由は、従来のクラウドベースAIサービスでは必要だった月額使用料や通信コストが不要になる点です。
一度システムを構築すれば、継続的な運用コストを気にすることなくAI機能を作品に組み込めるのは、資金面で制約の多い個人開発者にとって革命的な変化と言えるでしょう。
AIキャラクター「ミライア・リンクス」は、プレイヤーとの対話において感情豊かな応答を提供し、まるで同居しているような自然な体験を実現しています。単なる質問応答システムではなく、プレイヤーの心理状態を理解し、適切なタイミングで励ましや助言を提供する「真のコンパニオン」として機能します。デモの紹介では、プレイヤーが困っている様子を察知すると、難易度を動的に調整したり、ヒントを提供する機能が見られました。これは従来の固定的なゲームシステムでは実現困難な、本当の意味での「個別最適化された体験」です。このシステムは既に大阪万博のヘルスケアパビリオンでも展示されており、医療分野での応用も視野に入れた実用段階に達していることが確認できました。
スタジオ51のシステムで最も革新的な点は、プレイヤーの想像力と言語表現力が直接的に戦闘結果に影響する「AIストラテジーゲーム」の実装です。従来のコマンド選択式やボタン操作ではなく、自然言語での戦術指示がそのまま戦闘システムに反映される革新的なアプローチです。
例えば、「敵の背後から奇襲をかけて、魔法で注意を逸らしながら近接攻撃を仕掛ける」といった複雑な戦術をプレイヤーが言葉で表現すると、AIがその内容を理解・解釈し、実際のゲーム内アクションとして実行します。プレイヤーの表現力や創造性が直接的にゲーム体験の質に影響するため、同じゲームでもプレイヤーによって全く異なる体験が生まれます。
オンデバイスAI導入のメリット
初期導入後のランニングコストゼロ
ユーザーのプライバシー保護による信頼性向上
インターネット環境に依存しない安定動作
カスタマイズ自由度の高さ
将来的な技術進歩への対応可性
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AdobeやHerozといった、大手も含む複数の企業もこのAIテクノロジーパビリオンに参加しており、AI技術の実用化に向けた業界全体の本気度を感じることができました。
特にAdobeは、Photoshopを始めとする各種ソフトウェアにAI機能を統合する取り組みを加速させており、個人クリエイターの制作環境に直接的な影響を与える存在として注目されています。
Adobe製品への生成AI機能の統合は、個人クリエイターにとって制作工程の大幅な効率化を意味します。例えば、コンセプトアートの初期段階での大量のバリエーション生成や、背景素材の自動生成、キャラクターデザインの展開案作成など、従来であれば膨大な時間を要していた作業が劇的に短縮される可能性があります。
AIテクノロジーパビリオン全体を通して感じたのは、AI技術がもはや「実験的な要素」ではなく、「実用的なツール」として確立されつつあるということです。デジタルサイネージからゲーム開発まで、様々な分野でAIが具体的な価値を提供している現状を目の当たりにしました。
特に興味深かったのは、多くの展示が「AI技術そのものを見せる」のではなく、「AI技術を使って何ができるか」に重点を置いていた点です。
これは技術の成熟度を示すと同時に、個人クリエイターがAI技術を活用する際のヒントにもなります。重要なのは技術の理解ではなく、やはりその技術を使って「何を叶えたいか」という創造的なビジョンだと思います。
TGS2025で目撃した数々の展示は、ゲーム分野のクリエイターにとって重要な示唆を含んでいます。特にAI技術の実用化は、個人でも十分に活用可能なレベルに到達しており、今後のゲーム制作において無視できない要素となっています。
コンテンツ生成の自動化:クエスト生成、ストーリー分岐、ダイアログ作成での部分的活用
プレイヤー体験の個別最適化:AIキャラクターによるサポート、動的難易度調整
開発効率の向上:デバッグ、テストプレイ、バランス調整の自動化
マーケティング支援:プロモーション用コンテンツ生成、SNS投稿の最適化
ユーザー分析:プレイデータの分析、改善点の自動抽出
TGS2025で見た技術の多くは、実は個人レベルでも導入可能なものでした。
完璧な実装を目指すのではなく、まずは小さな部分からAI技術を取り入れることで、制作効率の向上と作品の差別化を図ることができます。
すぐに始められるAI活用例
テキスト生成AIでのNPCダイアログ作成支援
画像生成AIでのコンセプトアート・プロトタイピング
音楽生成AIでのBGM・効果音の素材作成
翻訳AIでの多言語対応の効率化
コード生成AIでのプログラミング支援
重要なのは、AIツールを「完璧な解決策」として期待するのではなく、「創造的なパートナー」として活用することです。AIが生成したコンテンツに人間の創造性を加えることで、従来では実現困難だった表現や体験を生み出すことが可能になります。
学生作品で見られたGDCさながらな創造的な入力デバイスは、個人開発者でも実現可能な範囲のものが多く含まれていました。Arduino やRaspberry Piといった安価なマイコンボードと組み合わせることで、独自性の高いゲーム体験を創出できる可能性があります。
企業ブースで見られたフォトスポットの充実ぶりは、SNS時代のマーケティング手法として非常に有効です。個人クリエイターも、作品の世界観を体験できる要素を制作過程で意識することで、自然な形での情報拡散を期待できます。
東京ゲームショー2025は、AI技術とゲーム制作の融合が本格的に始まった記念すべき年として記憶されるでしょう。オンデバイスAI技術の進歩により、クリエイターでも高度なAI機能を作品に組み込むことが現実的になりました。
重要なのは、技術そのものではなく、それをいかに創造的なアイデアと組み合わせるかという点です。学生作品で見られたユニークな発想力と、企業展示で確認できた実用的な技術実装を参考に、個人クリエイターの皆さんもぜひ新しい表現領域に挑戦していただければと思います。
AI技術は今後、ゲーム制作だけでなく、イベント運営、顧客対応、コンテンツ管理など、クリエイティブ活動の様々な局面で活用されることが予想されます。ブース内のコンテンツ案内、イベント受付、ファン対応など、これまで人手に頼っていた業務も順次AI化が進むでしょう。
個人クリエイターの皆さんには、この技術革新の波に乗り遅れることなく、自分の創造的ビジョンを実現するためのツールとしてAI技術を積極的に活用していただきたいと思います。
2025年の東京ゲームショーで目撃した未来が、間もなく私たちの日常的な制作環境となる日は、そう遠くないでしょう。最後に、AIテクノロジーパビリオンで最も印象に残ったのは、技術者やクリエイターたちの「AIと人間の共創」に対する前向きな姿勢でした。
AI技術を人間の創造性を置き換えるものではなく、それを増幅し、新たな可能性を開くパートナーとして捉える視点こそが、これからのクリエイティブ業界で最も重要な要素になるのではないでしょうか、来年の東京ゲームショウの出展内容の進化も今から楽しみです。
※本レポートは2025年9月25日 東京ゲームショー2025 ビジネスデイでの体験に基づいています。技術仕様や展示内容は変更される可能性がありますので、最新情報は各企業・団体の公式発表をご確認ください。
以上、AICUコラボクリエイターの ざすこ(道草 雑草子)がお送りしました。この記事に「いいね!」と思ったら、いいねとフォロー、おすすめをお願いします!
🎤生成AI解説系VTuber道草ざすこ
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https://corp.aicu.ai/ja/tgs-20250925
Originally published at note.com/aicu on Sep 28, 2025.