AICUはるフェス2026 Day2 セッションレポート(後編)
AiHUB・新井モノ × アニメプロデューサー・井上博明 × くりえみ × AICU代表・白井暁彦(しらいはかせ)
AICU media ライターのEMKOがお送りします。
▶ 前編「『誰もがクリエイターになれる時代』の次に何が起きるか、歴史はもう答えを出している」もあわせてお読みください。
https://aicu.jp/e/Fes26Halu/AiHub/
前編では、ゲーム産業50年の歴史を通じて「誰もがクリエイターになれる時代」時代に繰り返されてきた転換のパターンを辿りました。後編では、その転換の先でクリエイター個人がどう生き残るかに焦点を当てます。
https://note.com/aicu/n/n08ed688cc478
みんなが同じツールを使えるなら、なぜ差がつくのでしょうか。そして、クリエイターはAIで本当に食べていけるのでしょうか。
今回の対談のお相手は、AiHUB株式会社・アニメプロデューサーの井上博明氏です。ガイナックス創業メンバーの1人であり、手塚プロダクションで手塚治虫と直接交流した経験をお持ちです。『王立宇宙軍』『トップをねらえ!』など数々の名作を手がけてきた、アニメ業界50年の証人です。
聞き手は、エンタテインメントとコンテンツ工学を30年以上研究し、AI時代のクリエイターコミュニティを率いるAICU代表・白井暁彦(しらいはかせ)です。
Crypto Lounge GOXで行われたお二人の対話は、技術論ではなく、クリエイターの「生き方」の話になりました。
白井: 今日ここに集まっているのは、AIに興味があるクリエイターの皆さんです。でも正直に言うと、興味があることと食べていけることは別ですよね。
井上: そうですね。クリエイターとして自分の興味の赴くままにいろんなことをやる——それ自体はすごく大事なことです。でも、アニメにしても何にしても、マネタイズしなきゃいけない。自分たちが食べていくために、AIをどう使うかを考えなきゃいけない。これは避けられない現実です。
白井: 「楽しいからやっている」だけではプロになれない、と。
井上: ただ逆に、「楽しい」と「稼げる」を完全に切り離して考えるのも間違いなんです。私がこれまで見てきた中で、長く生き残った人たちは、仕事を楽しむ技術を持っていました。
白井: 楽しむ技術、ですか。
井上: AIも同じだと思います。「使わされている」感覚の人と、「使いこなしてやる」という人では、5年後に全然違う場所に立っているんじゃないでしょうか。
白井: 井上さんは手塚プロダクションで手塚先生と直接やりとりされていたと伺っています。あの時代と今のAI時代は、重なりますか?
井上: 重なりますね。手塚先生はフルアニメーション——ディズニーのような豊かな動きを理想としていた。でも当時のテレビという媒体には、時間も予算も全然なかった。だからリミテッドアニメーションという「制約の中の表現」を逆手に取って、日本独自のアニメというジャンルを生み出した。
白井: 制約が新しい表現を生んだ。
井上: しかも先生は医師でもあった。生命や死を日常的に考える経験が、鉄腕アトムという「感情を持つロボット」の深さを生んだと思っています。
白井: 本業の経験が、作品の深みになる。
井上: 今のAIクリエイターも同じです。「自分には専門的な技術がない」という引け目こそが、実は一番の武器になりうる。
井上: エンジニアは技術的に正確なものを作ろうとする。デザイナーはビジュアルを整えようとする。でも「普通の人」は、自分が感動したこと、悔しかったこと、誰かに伝えたいことを素直に出せる。それがいちばん人を動かすんですよ。AIはそれを増幅するツールなんです。
白井: 一方で、AI技術を「覚えること」自体が目的になっているクリエイターも多いと感じます。
井上: それはいちばん危ない状態ですね。ツールを知っていることと、それで価値を生み出せることは全然別の話。私がこの業界で見てきた中で、「新しい技術を誰よりも早く習得した人」が必ずしも成功しているかというと、そうじゃない。
白井: 技術は手段であって、目的じゃない。
井上: そう。では何が目的かというと、「誰かに何かを届けること」ですよね。感動でも、笑いでも、驚きでも。AIを使って何を届けたいのかが明確にある人は、ツールが変わっても強い。反対に、ツールありきで動いている人は、次の新しいツールが出るたびにゼロに戻ってしまう。
白井: だからAICUでは「つくる人をつくる」というビジョンを掲げています。技術を教えることより、「何を作りたいか」を持っている人を増やすことの方が大事だと思っています。
白井: 今日、プロのカメラマンがAI動画を作り始める場面がありました。あれを見て、これはすごいことが起きていると思ったんです。プロが本気でこのツールを使い始めたら——既存のクリエイターにとっては脅威になりますよね。
井上: 脅威でもあるし、チャンスでもある。プロが参入すると、アマチュアとの差が広がる部分は確かにある。技術の目利き力があるから、AIの出力の何が良くて何がダメかを瞬時に判断できる。偶然出た奇跡の1フレームを見逃さない眼がある。
白井: 同じツールを使っても、積み重ねてきた経験の差が出る。
井上: ただ一方で、AIによって「今までゼロだった人がゼロじゃなくなる」効果もある。プロは10を100にする。初心者は0を1にする。どちらにもビジネスチャンスは存在する。問題は、0を1にした後に、どうやって2、3と積み上げていくかの戦略を持っているかどうかです。
白井: 最初の1本を出すことより、出し続けることの方が難しい。
井上: そこですよ。私がこの業界で見てきた「消えていったクリエイター」のほとんどは、才能がなかったわけじゃない。続けられなかった。孤独に耐えられなかった。誰も見てくれない時期を乗り越えられなかった。
白井: 今、AIを使えば誰でも「それなりのクオリティ」のものが一瞬で作れてしまいます。でも、だからこそ「どこかで見たようなもの」が溢れている気もします。
井上: そこが一番危ないところです。AIが提示する結果に満足して、そこで完結してしまったら、世界中で同じことをやっている無数の人たちの中に埋もれてしまいます。
白井: ツールが便利になればなるほど、個人の「何か」が問われると。
井上: 私が強調したいのは、「自分だけの世界観、自分だけの物語」を持つことです。前編でも触れたように、資本や物量で真正面からぶつかれば、個人のクリエイターは勝てない。
白井: では、私たちはどう戦えばいいのでしょうか。
井上: 物語を、そして世界を深く掘り下げることです。どんなに優れたAIも、あなたの人生経験や、心の奥底にある「これが好きだ」という情熱までは代行してくれません。かつての庵野秀明(ガイナックス設立メンバー)も、過去の名作を徹底的に研究しつつ、自分の「好き」を執念深く詰め込みました。
白井: AIという「拡声器」を手にしたからこそ、何を叫ぶかという「中身」が重要になるわけですね。
井上: そう。ChatGPTが作ったプロットに乗っかるだけじゃダメなんです。自分の経験を入れ込み、世界観を構築する。技術がコモディティ化する2026年以降、最後に残るのは「この世界をどう見せたいか」という、クリエイターの魂の解像度なんです。あとね、勉強は大事。物語に対する勉強。いろんなものが読めるじゃないですか。その中で自分がいいなと思ったものを掘り下げる。
白井: では、続けるために必要なものは何だと思いますか?
井上: 仲間ですね。技術は変わる。流行は変わる。プラットフォームも変わる。でも「あいつに頼みたい」という信頼関係は残る。私がこの業界で長く生き残れた理由の1つは、信頼できる仲間がいたことです。AIの時代でも、それは変わらないと思います。
白井: AICUでこういうイベントをやり続けているのも、そこなんです。ツールを教えることより、クリエイターが孤立しない環境を作ること。今日みたいにその場で作って、その場でフィードバックをもらえる場は、独学では得られない。
井上: 失敗した10回も、仲間がいれば「ここで詰まる」という情報として共有できる。1人で10回失敗するのと、10人で1回ずつ失敗するのとでは、学びのスピードが全然違いますよ。
白井: だから「コミュニティに入ること」自体が、生存戦略の1つになる。
Crypto Lounge GOXの会場。参加者がモニターを囲んで対談に聞き入る
対談の最後、お二人はそれぞれこう語りました。
井上: 制約を嘆かないこと。ツールが不完全でも、お金がなくても、時間がなくても——そのぎりぎりの状況で生まれたものが、後から「あの時代の傑作」になる。手塚先生がそうだったように、今がまさに「あの時代」の真っ只中にいることを忘れないでほしい。
白井: 出し続けること。完成度よりも数と速度。AI時代は、試行錯誤の量がそのままクリエイターの資産になります。1本完璧なものを作るより、30本出した人の方が、1年後には圧倒的に強い場所に立っている。
食べていけるクリエイターと、そうでないクリエイターの差はどこにあるのでしょうか。
技術ではありません。ツールでもありません。自分の人生経験を作品に込める覚悟と、仲間と作り続ける意志。手塚治虫先生がリミテッドアニメーションで新しい表現を切り拓いたように、AIという新しいツールを手にした今だからこそ、まだ誰も見たことのない作品が生まれます。その未来は、もう始まっています。
Day2 セッションレポート:
「可愛いキャラを作りたい」が世界を変えた——AiHUB新井モノが語るAI画像生成の原点
AICUコミュニティ: - AICU: AI Creators Union|メンバーシップ
井上博明氏について: - Anime Los Angeles 2017 Interview with Hiroaki Inoue
イベント情報: - AICUはるフェス@GOX2026 情報解禁!|AICU
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Originally published at note.com/aicu on Mar 26, 2026.