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映画『ジェネレイドスコープ』封切りトークイベントレポート:AIは映画制作の夢を見るか?監督たちが語る創造の舞台裏

作成者: AICU Japan|2025/09/05 21:01:40 Z

2024年に始動した世界初の全編生成AIオムニバス映画プロジェクト『ジェネレイドスコープ』。安達寛高監督(『モンキーズ・オデッセイ』)、曽根剛監督(『AZUSA』)、山口ヒロキ監督(『グランマレビト』)という、実写映画の第一線で活躍する3名が、MidJourneyやRunway, KLING, ElevenLabsといった黎明期のAI技術を駆使して未知の映像表現に挑んだ作品です。記事の最後にはプレゼントもあります!

https://corp.aicu.ai/ja/generaidoscope-20250827

ここでは、2025年8月29日の公開初日、アップリンク吉祥寺で行われたトークイベントの模様をレポートします。企画の発端から、日進月歩で進化するテクノロジーとの格闘、そしてAIが切り拓く映画の未来まで、監督たちが語った創作の裏側に迫ります。

満席の大スクリーンで上映された「ジェネレイドスコープ 
⭐︎特別な許可を取って撮影しています。映画館での上映中の撮影は固く禁じられています。

「AIで映画が作れるんじゃないか?」

司会: まず、どのようにAIで映画を制作するのか、作り方の概要から教えていただけますか。

曽根監督: 基本的な考え方は、文章生成AIと変わりません。AIに「こういうのを作ってください」と指示を出すのは、動画でも画像でも文章でも同じです。もし皆さんがChatGPTやGeminiを使ったことがあるなら、それと同じことが画像や動画、音楽でもできる、と考えていただくと分かりやすいです。「こういう人物が、こういう背景で、こういう服装で、こんなことをしている画像を作って。そして、それをこんな風に動かして」と、本当にワンカットずつ作っていきました。

司会: この企画のきっかけは何だったのでしょうか?

曽根監督: 2年半ほど前、2023年の春頃にAIで色々なことができると知って、試しに作り始めたのがきっかけです。当時の動画生成AIはまだクオリティが低かったのですが、私はすっかりハマってしまって。2023年の夏頃には海外のAI映画祭で入選したりして、周りも驚いているような状況でした。

そして2024年の1月頃、山口監督に「そろそろAIで短編映画が作れるんじゃないか」とLINEで話したんです。ただ、一人で長編を作るのはまだ大変だ、と。そこで、3人ぐらいの監督で集まれば、劇場公開できる1時間ぐらいの映画になるんじゃないかと考えました。

安達監督: ちょうどその頃、私が3DソフトのBlenderで作品を作っていたら、それをお二人が見てくださって。

山口監督: 安達さんの作品のタイトルが『AI Detective』で、音楽も完全にAIで作られていたんです。これは絶対いけるだろうと確信して、「やりましょう!」と3人で動き始めました。

 
https://note.com/elephant1978/n/n5dd29a196341

曽根監督: 本企画が正式に発足したのが2024年の3月頃で、その年の夏か秋には完成させて公開しようと決めました。

左から安達寛高監督(『モンキーズ・オデッセイ』)、曽根剛監督(『AZUSA』)、山口ヒロキ監督(『グランマレビト』)

テクノロジーとの格闘:監督たちが直面した「AIの壁」

安達監督: お話をいただいた時、動画生成AIの「Sora」が発表されて話題になっていたので、「すごいことになってるな」というくらいの認識はありました。でも、まさか自分が始めるとは思っていなかったですね。

https://corp.aicu.ai/ja/openai-sora-20250315

曽根監督: 2024年の春頃は、まだ人物をちゃんと歩かせることすら難しかったんです。「これで映画を作るのは無理だろう」と一度は絶望しました。当時は4秒か8秒の映像しか作れず、しかも3秒も経つと登場人物の顔が完全に別人になってしまう。作った映像の使える部分、ほんの1秒か2秒を繋ぎ合わせて、なんとか長編にできないか、という挑戦でした。

司会: 各作品のテーマは、そうした技術的な制約も考慮して決められたのでしょうか?

安達監督: はい。企画をいただいてからAIについてリサーチした結果、「できるだけ人間を出さない話を作ろう」という結論に至りました。そこで、昔書いた猿ばかり出る小説があったのを思い出し、これを映画用にリライトすることにしたんです。

曽根監督: 我々3人とも実写映画の監督ですが、これらの企画を実写で撮ろうとしたら、日本の映画予算ではまず不可能です。

安達監督: 普通に考えたら無理ですね。それに、猿なら多少姿かたちが変わっても、視聴者は違和感を持たないんじゃないか、という狙いもありました。よく見ると実在しない種類の猿が混じっていると思いますが(笑)。僕の『モンキーズ・オデッセイ』は、知識を吸収して進化していく猿の物語ですが、これがまるでAIの成長そのものを描いているようで、今回の企画にぴったりだと思いました。

司会: 曽根監督の『AZUSA』は、当初の構想からかなり変更があったと伺いました。

曽根監督: もともとは80分ほどの長編で、登場人物もたくさん出る企画でした。でも、当時のAIは2人以上の人物を同じ画面に映すことすら難易度が高かった。そこで、「同じシーンに人物が2人以上いる場面はとにかく削ろう」と脚本を大幅に改稿していくうちに、尺が10分ちょっとになってしまいました。そもそも、カットごとに同じ人物を出し続けること自体が非常に難しかったんです。

司会: 山口監督の『グランマレビト』は、お二人の作品に比べて映像がスムーズな印象を受けました。

山口監督: 私が本格的に制作を始めたのは秋の終わり頃だったので、お二人が使っていたものより少し進化したAIを使えたのが大きいですね。それでも、ロボットのデザインの一貫性を保つのが非常に大変で…。結果的に、ロボットより人間のおばあちゃんの方がまだ動かせる、ということで主人公が決まりました。当初はもっと音楽的な要素もあって、おばあちゃんが楽器を弾いて歌うシーンもたくさんあったんですよ。

曽根監督: 歌のシーンは私の『AZUSA』でも断念しました。去年の今頃は、アニメキャラクターに歌わせようとすると、口元だけがリアルな人間の実写になってしまうという奇妙な現象が起きて。いくつツールを試してもダメで、諦めざるを得ませんでした。今では当たり前にできることなんですけどね。

日進月歩の進化と、未来への展望

曽根監督: 企画が完成したのが去年の夏から秋にかけてですが、その後もAIはどんどん進化していくので、正直に言うと「全部作り直したい」という気持ちになります(笑)。

安達監督: 特に動物の描写は倫理的な規制が厳しくて。『モンキーズ・オデッセイ』で猿が死ぬシーンがあったのですが、動物虐待と判定されてエラーが頻発しました。結局、「寝ている猿」とか「死んだふりをしている猿」とプロンプト(指示文)を工夫して、AIを誤魔化しながらなんとか生成したんです。こういう規制はどんどん厳しくなっている印象がありますね。

司会: 今後、ご自身の作品作りでAIをどのように活用していきたいですか?

山口監督: 私は20年前に初めて撮ったSFの長編映画があるのですが、これを今のAI技術なら全部リメイクできるなと考えて、準備を進めています。当時は予算や技術で諦めざるを得なかった表現やカメラワークを実現したいですね。

曽根監督: 実写とAIを組み合わせることも積極的にやっています。グリーンバックで撮影した人物の背景を、CGではなくAIで生成するといった使い方です。

安達監督: また動物ものをやろうかと考えています。

司会: 海外ではAI映画祭が盛り上がっているそうですね。

山口監督: 日本では今年ようやくAIに特化した映画祭が出てきましたが、海外、特に韓国ではたくさん開催されています。私も曽根さんも、現地の映画祭で海外のAI監督たちと出会い、コラボレーションの話も進んでいます。

最後に:AI動画時代の「一番槍」を

安達監督:偶然にも8月29日は、映画『ターミネーター2』でAIが自我に目ざめた「審判の日」なのだそうです。そんな日にAI映画の初日をむかえることができて光栄です。

曽根監督: これまで映像制作の経験がなかった方々も、AIによって映画作りに参入できる時代になったと感じています。今後、色々な方とコラボレーションして、作品の幅を広げていきたいです。

山口監督: 私たちがこの企画を始めた頃は、まだAIに対する批判的な意見も多く、上映してくださる場所も少なかったです。今回、こうして皆さんに観ていただけて本当に嬉しいです。「AIで作っているかどうか」は、本質的にはどちらでもいい。新しいツールが出てきて、今までできなかった表現ができるようになった。その一番槍として僕たちが取り組んでみた、という作品です。もし面白いと思っていただけたら、ぜひ周りの方に勧めていただいて、この新しい動きを広めていってもらえたら嬉しいです。

司会:最後に監督たちにまた拍手をお願いします!

 
https://note.com/elephant1978/n/nf2d5503cebc0

上映イベントに参加して作品を応援しよう!!

2025年9月5,6,7日に上映後イベントが予定されています。

 
 
 

 

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上映情報:アップリンク吉祥寺

https://j.aicu.ai/_generAIdoscope

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©️2025 generAIdoscope: HIROTAKA ADACHI, TAKESHI SONE, HIROKI YAMAGUCHI / REALCOFFEE ENTERTAINMENT

 

Originally published at note.com/aicu on Sep 3, 2025.