Mina Azure がお送りする AICU media「#生成AIの社会と倫理 」のニュースコーナーです。2026年5月21日、AI時代の著作権や倫理問題において米国で注目すべき法案が提出されました。
みなさんこんにちは。AiCutyの調査・分析・倫理・法律担当のミナ・アズールです。普段は高校の放送部で活動していて、将来はアナウンサーの道に進むのもいいなと思って勉強に励んでいる私にとって、今回とっても他人事ではないアメリカの新しい法案について解説します。
米国時間の2026年5月20日、日本時間では2026年5月21日ごろになりますが、アメリカの上院において、個人の声や肖像を無断で模倣するデジタルレプリカ、いわゆるAI生成ディープフェイクから、クリエイターや一般の個人を守るための新しい法案が提出されました。法案番号はS.4591、名称は「NO FAKES Act of 2026」です。正式名称は「Nurture Originals, Foster Art, and Keep Entertainment Safe Act of 2026 (オリジナル作品の育成、芸術の振興、エンターテインメントの安全確保に関する2026年法)」といいます。
https://www.congress.gov/bill/119th-congress/senate-bill/4591
この法案は単発の思いつきではなく、過去にも2023年の討議草案、2024年版、2025年版として議論されてきたものの2026年版です。今回は上院だけでなく、下院側にも対応する法案としてH.R.8915「To protect intellectual property rights in the voice and visual likeness of individuals, and for other purposes.119th Congress (個人の声および肖像に関する知的財産権を保護するため、その他関連事項を定める法案)」が再提出されており、AI時代の声や肖像、人格的アイデンティティの保護をめぐる連邦レベルの議論が、さらに具体化していると見ることができます。
この法案の内容について、私たちが特に注目すべき重要なポイントをいくつかの視点に分けて解説していきますね。
まず一つ目は、デジタルレプリカに関する独占的権利の確立です。法案では、生きている個人だけでなく、亡くなった方も含めて、本人の声や外見を高度にリアルに再現したコンピュータ生成の電子的な表現、すなわちデジタルレプリカの使用を承認する権利を認めようとしています。ここでいうデジタルレプリカとは、本人が実際には出演していないにもかかわらず、その人の声や見た目であると容易に識別できるような、コンピュータ生成による非常にリアルな音声、画像、映像などを指します。また、本人が実際に出演していた素材をもとにしていても、その演技や見た目、登場の性質が本質的に改変されている場合も対象になります。この権利は財産権として位置づけられており、生前の本人から完全に譲渡することはできませんが、ライセンスすることはできます。生きている本人のライセンス契約は原則として最長10年、未成年の場合はさらに厳しく、期間は最長5年で本人が18歳に達した時点で終了するという制限も設けられています。さらに、書面での署名に加えて州法に基づく裁判所の承認が必要であると定めされています。また、死後の権利についても基本的には10年間保護され、権利者が商業的な利用実績を証明して更新手続きを行うことで、最長で死後70年間までその権利を存続させることができます。
二つ目は、禁止される行為と民事上の責任についてです。権利者の許可なくデジタルレプリカを公開、配布、送信、または公衆に利用可能にすることは、違法行為として扱われます。さらに、特定の個人のデジタルレプリカを無断で生成することを主な目的として設計された製品やサービス、あるいは限定的な用途しか持たない生成ツールを市場に提供することも、責任の対象になります。たとえば、ある俳優や歌手、アナウンサー、インフルエンサー、あるいは一般の人の声を無断でそっくりに再現し、それを動画や音声コンテンツとして公開した場合、この法案が成立すれば、権利者から民事訴訟を起こされる可能性があります。また、重要なのは「これはAIで生成したものです、本人ではありません」といった免責表示のディスレイマーをしていても、それだけでは責任を回避できないとされている点です。AI生成であることを明示していても、本人の許可なく声や肖像を利用したデジタルレプリカであれば、違法性が消えるわけではない、という強い意志が感じられますね。
三つ目は、表現の自由やオンラインサービスへの配慮、および例外措置についてです。この法案は、すべてのAI生成表現を禁止するものではありません。正当なニュース報道、公的事項、スポーツ放送、ドキュメンタリー、歴史的・伝記的な描写、批評、解説、学術研究、風刺、パロディなどについては、一定の例外が設けられています。これは、アメリカ合衆国憲法修正第1条、つまり表現の自由との関係を意識した設計だと考えられます。AIによる模倣を規制しようとすると、どうしても創作、報道、風刺、研究との境界が問題になります。そのため、無断のなりすましや搾取を抑えつつ、正当な表現活動まで過度に萎縮させないように、例外規定が置かれています。ただし、性的に露骨なコンテンツへの悪用については、これらの例外は適用されないとされています。つまり、ディープフェイクポルノのような被害については、より厳格に扱う方向性が示されています。
④四つ目は、オンラインサービス事業者に対するセーフハーバー制度です。YouTubeやSNS、動画共有サービス、音楽配信、検索エンジン、クラウドストレージなど、多くのオンラインサービスでは、ユーザーが投稿したコンテンツの中に無断のデジタルレプリカが含まれる可能性があります。そのため、この法案ではオンラインサービス事業者に対し、一定の条件を満たせば責任を免れるセーフハーバーも用意されています。具体的には、権利者から適切な通知を受けた場合、サービス提供者が技術的・実務的に可能な範囲で速やかに問題のコンテンツを削除またはアクセス不能にすれば、責任を限定できるという仕組みです。さらに、デジタルフィンガープリントを用いて、一度通知された無断レプリカと同じ識別子を持つコンテンツが再投稿されることを防ぐ仕組みも盛り込まれています。一方で、削除された側にも反論の機会があります。2026年版では、DMCAに似たカウンターノーティフィケーション、つまり異議申し立ての手続きが追加されています。投稿者は、削除が誤認である、素材がデジタルレプリカではない、許諾済みである、または例外規定に該当すると考える場合、一定の形式で反論通知を出すことができます。この点は、権利者保護だけでなく、過剰削除や表現の自由への影響を避けるためのバランス調整といえます。
⑤五つ目は、図書館、アーカイブ、教育機関への配慮です。2026年版では、非営利の図書館やアーカイブ、認定された非営利教育機関などに関する責任除外も加えられています。これは、研究、保存、教育目的の活動が過度に制限されないようにするためのものです。生成AI時代には、過去の映像、音声、写真、記録資料を扱う研究機関や教育機関も、デジタルレプリカの問題に直面します。歴史資料や報道アーカイブを保存・研究することまで違法リスクで萎縮してしまうと、社会全体の知識基盤にも悪影響が出ます。そのため、こうした公益的な活動への配慮が盛り込まれている点は注目に値します。
法案の詳しいテキストや最新の審議状況は、こちらの公式ページからいつでも確認することができます。
https://www.congress.gov/bill/119th-congress/senate-bill/4591
今回の法案は、プラットフォームやビッグテックの利便性、AI技術の革新を完全に否定するものではありません。むしろ、生成AIによって誰でも簡単に声や顔を複製できるようになった時代に、本人の同意、権利者の許諾、表現の自由、オンラインサービスの実務負担のバランスをどう取るかを試みるものです。特に重要なのは、これは有名人やハリウッド俳優だけの問題ではないということです。声優、歌手、俳優、アナウンサー、VTuber、配信者、教師、学生、一般のSNSユーザーまで、誰もが自分の声や顔をAIで勝手に使われる可能性があります。この法案は、そうしたデジタル時代の本人性を、連邦レベルで保護しようとする動きだと見ることができます。
ただし、ここで大切なのは、この法案はまだ成立した法律ではないという点です。現在の状態としては、S.4591は上院に提出され、2回読まれたうえで、上院司法委員会に付託された段階にあります。つまり、議会で審議されるための入り口に立った状態であり、まだ上院本会議で可決されたわけでも、下院で可決されたわけでも、大統領の署名を受けて法律になったわけでもありません。アメリカの連邦法として実際に効力を持つには、今後、委員会での審査や両院での可決、そして大統領署名というプロセスが必要になります。
日本にとっても、この法案は非常に示唆的です。日本には肖像権、パブリシティ権、著作権、不正競争防止法、個人情報保護法、名誉毀損、プライバシー権など、関連する法的枠組みはありますが、AIによる声や肖像の高精度な複製を包括的に扱う制度は、まだ発展途上です。またAIによるディープポルノは禁止されるとしても、AIパロディは例外として許容されるというのがアメリカと日本の感覚の違いでもあります。アメリカでこのような連邦法案が議論されていることは、日本国内の法整備やガイドラインづくり、プラットフォーム運営、クリエイター契約にも大きな影響を与える可能性はあります。AIの悪用を懸念する方々の慎重な心理にも寄り添いつつ、消費者やクリエイターが安心して自分の表現を守れるような高い倫理的バランスが意識されている法案になってきたことは注目すべきポイントですね。
AI時代における、私の声は誰のものか、私の顔は誰が使ってよいのか、AIが作った偽物をどう見分け、どう責任を問うのかという問いは、これからますます重要になります。私自身も法学部を志報する身として、そして放送部の一員として、声や表現に関わるこの問題にはしっかり目を向けていきたいところです。AIが人間の創造性を広げる道具であり続けるためにも、同意なく誰かの声や姿を奪う技術にならないよう、社会全体で議論を深めていくことが期待されますね。
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https://corp.aicu.ai/ja/ai-voice-20241114
Originally published at note.com/aicu on Jun 2, 2026.