AIは人間の作業を代行する「効率化」の道具か、それとも人間の想像力を超えた場所へ連れ出してくれる「逸脱」の道具か——。2026年5月23日、多摩美術大学で開催されたオープン科目「AI特論」の講義に参加したAICUコラボクリエイターの殻尾さん(X@KARA_Beee)によるレポートです。現役生成AI漫画家/クリエイターの視点から、生成AIとアートについて考えます。
多摩美術大学【AI特論】レポート ── AIに「見間違えてもらう」ということ
―― 逸脱するためのAIと、創作に潜む“程よい曖昧さ”
どうも、AICUコラボクリエイターの殻尾/殻Bee(からびー)です。
AIは人間の作業を代行する「効率化」の道具か、それとも人間の想像力を超えた場所へ連れ出してくれる「逸脱」の道具か——。
先日、多摩美術大学で開催されたオープン科目「AI特論」の講義に潜り込んできました。テーマは「逸脱するためのAI ― 認知駆動型インタラクティブアートの制作から」。アーティストでもあるスコット・アレン氏(京都精華大学)が登壇し、谷口暁彦氏(多摩美術大学)がモデレーターを務める一席です。
正直に白状すると、最初は軽い気持ちで足を運びました。ところが蓋を開けてみれば、一人の漫画家として、創作の核心をいくつも揺さぶられて帰ってくることになったのです。今回はその記録を、現役クリエイターの視点から少しだけ寄り道しつつ、皆さんにお裾分けさせてください。
■ 「効率化」ではなく「逸脱」のために
導入で谷口氏が紹介したのは、ご自身が手がけたAIミュージックビデオの事例でした。昨今の動画生成AIは、ともすれば「人間の代替=コストカットの道具」として語られがちです。
けれど谷口氏の制作は真逆をいきます。AIに毎フレーム、わざと別の画像を“見誤らせる”。因果関係の整った滑らかな映像ではなく、AIの学習データの奥底をかき回し、人間には作りえない非人間的な質感を引きずり出す。そういうアプローチでした。
この姿勢は、続くアレン氏のレクチャーで明確な思想として立ち上がります。
2022年にChatGPTが登場して以来、今日の生成AIの出力精度は飛躍的に上がりました。けれどその代償として、いくつかの懸念も語られるようになっています。創作物がどれも似通った方向へ収束していく「表現の均質化」。思考をAIに預けることで人間の考える力が痩せていく「認知の萎縮」。そして推薦アルゴリズムの最適化が、未知のものとの偶然の出会い——セレンディピティを奪っていくこと。
アレン氏が提唱するのは、AIを「最適化」や「効率化」の道具としてありがたがるのではなく、予定調和から外れていくための道具として使う、という発想の転換でした。
■ パレイドリア ―― AIも人間と同じように「見間違える」
アレン氏がAIに感じる最大の魅力は、「似ている」「〜っぽい」といった、人間のあやふやで主観的な認識を、数理として捉えられる点にあるそうです。そのうえで、人間がどういう状態のとき最も想像力を働かせるのかを探る鍵として、二つの概念が紹介されました。
一つめが「パレイドリア」。
岩がトカゲに見えたり、木目や水道の蛇口が人の顔に見えたり——本来は無関係なものを、自分の知っているパターン(とりわけ「顔」)として認識してしまう、あの心理現象です。
興味深いのは、AIの画像認識モデルもまったく同じことをやる、という指摘でした。流れる雲を「顔」と誤認するAIは、人間のパレイドリアと地続きの働きをしている。完全なノイズでもなく、くっきりした写真でもない、「何かに見えそうな絶妙な余白」がそこにあるとき、人間は日本文化でいう「見立て」のように、強く想像力をかき立てられる。AIもまた、その余白に反応してしまうわけです。
■ “程よい粒度”という創作のレシピ
二つめが「マグネティックポエトリー」。
英単語が一つずつ印刷された小さな磁石を冷蔵庫に貼り、文章を組み立てて遊ぶ知育玩具です。心理学者のリチャード・グレゴリーは、この玩具こそ人間の創造性を引き出すのに最適な構造をしている、と論じました。
理屈はこうです。磁石の単位がアルファベット1文字まで細かいと、概念を繋げられず発想が広がらない。逆に2〜3語の固定フレーズまで大きいと、意味が固まりすぎて想像の余地が消える。ちょうど「単語」というレベルにあるとき、意味の固定を避けながら異なる概念を繋ぎ、新しい意味を生み出せる——この「程よい流動性(粒度)」が創造性の源泉だ、というのです。
アレン氏は、この粒度の発想を視覚的な見立て(パレイドリア)へ応用します。「別の何かに見立てられるか / 見立てられないか、そのギリギリの曖昧さ」をAIで意図的に作り出すこと。それが人間の思考や創造性を豊かに拡張する鍵になる、と。
この時筆者は、「これは物語づくりのレシピにも使えるな」と思いました。
世界観の設定は、細かく作り込みすぎても、逆にガチガチに固定しすぎても、読者の入り込む隙間がなくなってしまう。読者の想像力が最も働くのは、いつだって「程よい曖昧さ」が残された余白の中なのです。
■ 機械と「いっしょに考える」体験
こうした哲学を土台に、鑑賞者の行動にAIが推論を返し、それが人間の認知そのものに作用していく「認知駆動型」の作品群が紹介されました。
たとえば、顔生成AIに自分の顔の特徴を学習させ、少しずつ乱数を加えて「自分に似ているが自分ではない顔」を大量に生む作品。アイデンティティを撹乱し、匿名性を獲得する試みです。
あるいは、体験者がオブジェで作った影に対し、AIがまるで見当違いの「見立て」を返してくる作品。影の余白をベッドと認識する、といった具合に、人間の想像力を別の視点へジャンプさせるのです。
谷口氏は講評で、こう評していました。
従来のインタラクティブアートは、鑑賞者だけが頭を巡らせる構造だった。けれどこれらの作品では、作品(AI)の側も「いっしょに考えている」感覚が立ち上がっている、と。
人間と機械、二つの認識主体が交錯する新しい体験——この指摘は、創作に向き合う者として深く頷くものでした。
■ “心霊写真量産機”としてのスマートフォン
講義の後半は、それを身体で体感するワークショップでした。
専用のウェブアプリを立ち上げたスマートフォンを持って外を歩き回る。すると、顔認識アルゴリズムが風景の中に「顔」を誤認した瞬間、自動でシャッターが切られるのです。木々や壁や物陰の中から、機械が勝手に“顔らしきもの”を見出して写真に収めていく体験——。
筆者の作品より。
まぁどれもよくよく見ればそう見えなくもない………か? ぐらいの感じですが、中には本当に顔にしか見えない写真を撮っている人もいました。
谷口氏も講評の中でこれを「心霊写真量産機ですね」と笑っていたのですが——確かにこれぞ「幽霊の正体見たり枯れ尾花」です。
考えてみてください。昔の人が暗がりや木立の中に「顔」を見出し、それを幽霊や妖怪として語り継いできた営み。あれは、人間の脳が起こしていたパレイドリアにほかなりません。
そして今回、AIはまったく同じことをやってのけた。人間の脳が“怪異”を見てしまうメカニズムと、AIが“顔”を見出してしまうメカニズムは、原理的に同じだったわけです。
壁のシミや物陰に顔が浮かぶ——ホラーの鉄板中の鉄板が、近未来の顔認識テクノロジーによって、まったく新しい怖さを纏って蘇る瞬間でした。
折しも筆者は、近未来の学園を舞台に妖怪を描く『YOUKAI』という連載を手がけています。
人ならざる“何か”の気配をどう一枚の絵に宿すか、日々頭を抱えている身としては、この原理の一致はもう、とても他人事ではいられませんでした。
■ 持ち帰ったもの
漫画を描く人間として、筆者がこの一日で受け取ったものははっきりしています。それは「曖昧さの解像度を操作する」という視点です。
読者の想像力が滑り込む余白を、どれくらいの粒度で、どのタイミングで差し出すか。怖さも、笑いも、感動も、結局は受け手の中で立ち上がるもの。作り手にできるのは、それが立ち上がる“ちょうどいい曖昧さ”を設計することだけなのかもしれません。
AIを「人間の代わり」として使うのか、それとも「人間が一人では辿り着けない逸脱」へ連れ出してくれる相棒として使うのか。同じ道具でも、向き合い方ひとつで見える景色がまるで違う。次のネームに向かうとき、筆者はきっと、機械の“見間違え”のことを思い出すはずです。
久々のオープンキャンパス、思いがけず創作の核心をいくつも持ち帰る一日になりました。このオープン科目「AI特論」は暫くの間、毎月定期開催されるとの事で、今後も追っていきたいと思います。
https://www.kanko-setagaya.jp/event/187
2026/5/23,多摩美術大学「AI特論」(リベラルアーツセンター)にゲストとして登壇し,「逸脱のためのAI」と題した講義+ワークショップを担当しました.約70名の皆さんとCloudface再解釈・Unreal Pareidoliaスマホ版の2ワークを行い,谷口暁彦さんとコメント.お招きいただきありがとうございました! pic.twitter.com/7iHHpIi6W4
— Scott Allen (@Scott_Allen__) May 28, 2026
スコットさんが講義終わったあとに「最近Youtubeやってるんですよー」って言っておもむろに撮影始めてて、そうんなんだ、と思って探してみたらYoutubeやってた https://t.co/EbEXJjUJGt
— akihiko taniguchi (@hikohiko) May 23, 2026
#多摩美術大学 #スコット・アレン #谷口暁彦 #殻尾 #生成AIとアート
Originally published at note.com/aicu on Jun 6, 2026.

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