「つくる人をつくる」AICUによるイベントレポートです。安野貴博氏の近未来教育フォーラムにおける講演「AI で世界は変わるのか?都知事選から得た知見を基に」よりお送りします。
デジタルハリウッド株式会社は、2024年11月30日(土)、近未来教育フォーラム2024 を開催しました。今年のテーマは 『The Great Transition〜ポストAIは来ない〜』。AI時代を生き抜くための教育のあり方について、豪華なゲストスピーカーと共に探究しており、AICU編集部でも複数回の特集で紹介しています。本レポートでは、安野貴博氏の講演「AI で世界は変わるのか?都知事選から得た知見を基に」の内容を、AICU 編集部の hikonyan が要約してお伝えします。
AI で世界は変わるのか?都知事選から得た知見を基に
安野さんは AI エンジニア、起業家、SF作家という 3つの顔を持っています。
SF作家としての安野さんは、第9回ハヤカワSFコンテストで優秀賞を受賞した「サーキット・スイッチャー」を執筆しました。
また、 AI について知れるお仕事小説「松岡まどか、起業します AI スタートアップ戦記」も安野さんの作品です。
そんな経歴を持つ安野さんは、2024年7月に行われた東京都知事選に出馬し、 AI を活用した双方向型の選挙を実践しました。
AIと政治、多くの人にとっては遠くにあるという認識だった
安野さんは、2024年の東京都知事選挙における自身の選挙活動で実践した AI 技術の活用事例を基に、 AI がどのようにコミュニケーションと民主主義をアップデートできるかについて語りました。
AIを活用した政策立案プロセス
安野さんが都知事選においてやったことは、X(旧Twitter)などで得られた不特定多数のコメントを解析してカラフルな点の集まり、クラスターとして可視化することでした。
収集した膨大な数のコメントがそれぞれどの程度近いか、あるいは遠いかを AI を用いて分析し、近いもの同士を分類していきます。すると、まとまっているところが色分けされた塊に見えます。安野さんたちは、それを「クラスター」と呼んでいます。
そうすると、いくつかクラスターが存在することが見えてきて、例えば一番右側のところは石丸氏の支持に関する話、真ん中の紫色のものは若者の政治参加に関する話をしているなどの情報が読み取れるようになります。皆さんがアイデアをポストイットに書いて壁に貼って、みんなでワイワイやるものに似たことをやっていると思うと良いでしょう。そういうことを大きなスケールで AI で実現したのです。
AIによるコミュニケーションの円滑化
また、安野さんは、 GitHub と呼ばれる、ソフトウェアエンジニアがよく使っているプラットフォーム上で政策の議論をする掲示板みたいなものも作ったそうです。やってみると、結果 15 日間でプラットフォームにより、 232 件の課題提起と、 104 件の変更提案があり、そのうち 85 件が実際に政策に反映されました。
https://github.com/takahiroanno2024/election2024
安野さんは膨大な数の意見交換を円滑に進めるために、「私がやったのは、 AI 技術によってモデレーションをした」と話します。具体的には 2 つのことをやりました。 1 つは荒らし対策です。攻撃的な発言やヘイトスピーチ、あるいは不適切な画像の投稿などが起きたときに、AI でフィルタリングするようにしました。これにより、安心して議論できる場になったそうです。
2つ目は、議論をするスレッドが重複しないように、近いスレッド同士を抽出することできるように提案する AI bot を稼働させたことでした。これにより、みんなの知恵をちゃんとしかるべき場所に集約できるようになっていたそうです。
選挙の段階ではこの 2 つの仕組みで議論の場を整えましたが、 AI の精度も上がってきているので、近い将来には「もう少し踏み込んだファシリテーションをすることができるようになるかもしれませんし、 10 万人などさらに大規模な人数で議論することもできるようになるかもしれない」と安野さんは話します。
そのときの 1 つの戦略としては、 1 対 1 を 10 万個 やるっていうやり方が考えられるそうです。つまり、一人一人は AI のエージェントに対して議論しているつもりでも、そこで得た情報を AI エージェントごとに共有することによって、実質的には 10 万人の人たちが出した意見や考えとインタラクションできるようなことができるかもしれません。
AIエージェントによる双方向コミュニケーション
安野さんはそのようなことの走りを実際に実装しました。 YouTube Live という YouTube 上の生配信プラットフォームを使って、そこに AI エージェントの安野さんを用意しました。その配信には誰でもコメントを書くことができるコメント欄があり、 安野さんの姿や声を持つ AI とコミュニケーションができるようにしました。どういう経済政策をしようとしているのか、こういう風な経済対策が大事だと思っているなどを、コメントに応じて返してくれる。これによって、「自分が知りたいことを直接聞けて、それに直接答えるという、双方向コミュニケーションができるようになりました」と話します。
さらに、 YouTube を使わない方向けに電話版もリリースしました。結果、 16 日間で 8,600 件もの質問に回答し、有権者の理解促進と投票行動への影響に一定の成果を上げたそうです。
聞く・磨く・伝えるのサイクル
安野さんは、これらの AI 活用事例を「聞く・磨く・伝える」のサイクルとして捉え、継続的な政策改善とコミュニケーションの最適化を目指していると述べました。この「聞く・磨く・伝える」のサイクルは、教育などのさまざまな分野でも有効なものだと、安野さんは考えています。
AIと教育への応用
教育分野における実践を考えると、聞くところでは、学習内容の全体像から個別の生徒の状況や理解度を分析したり、把握したりするっていうことに使えます。磨くところでは、把握した個別の生徒の状況に合わせて、パーソナルポイントを重点的に練習できるようにコンテンツをカスタマイズしたり、次に練習する課題も効率的に設計したり、成長プロセスを支援したりするということにつながります。伝えるところでは、生徒が自律的に学習を進めるためのコーチとして機能させたり、生徒が伝えたり、アウトプットを洗練させたりする伴走相手としても活用可能でしょう。
AI 技術で世界を変えられるのか
最後に「AI 技術で世界を変えられるのか」という問いに、安野さんは「変えられる」と明言しました。
「AI 技術で世界を変えられるのかってよく言われますけれど、変えられると思っています。しかも、それはこういった AI によってコミュニケーションのやり方がアップデートされることも影響が非常に大きいんじゃないんでしょうか。一対一のコミュニケーションもどんどん変わっていくと思うし、グループでのディスカッションもどんどん変わっていく。 10 万人、 100 万人、 1000 万人で 1 つのことを議論できるかもしれない。そういう大きな変化っていうのが、この先待っていると思います」
まとめ
安野さんの講演は、 AI 技術が政策立案に使えるのはもちろんのこと、教育などの幅広い分野にどのように活用できるかを示す具体的な事例を提供するものでした。 AI を活用した双方向コミュニケーションは、これまで以上に多くの人々と議論できる可能性、その影響の範囲も広い可能性があってワクワクしますね。 AI 技術の進化が、民主主義のアップデートにどのように貢献していくか、今後の展開に注目が集まります。講演全体を通して、 AI 技術を活用したコミュニケーションの進化に対する安野さんの強い期待と熱意が感じられました。
今回は安野さんの講演の様子をお伝えしました。近未来教育フォーラムはこのあと『The Great Transition~ポストAIは来ない~』というテーマにふさわしく、岡瑞起さんの講演や安野さん×岡さん×藤井直敬卓越教授によるトークセッションが行われました。この様子も後日記事を公開予定です!
https://aicu.jp/n/nf47ab8f820b8
https://aicu.jp/n/n84b99a8e3e65
Originally published at https://aicu.jp on Dec 28, 2024.
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