AIクリエイターが集まったら、AI映像の現在地が見えてきた #AICDフィルムフェス

AIクリエイターが集まったら、AI映像の現在地が見えてきた #AICDフィルムフェス

2026年6月7日に秋葉原UDXシアターで「AICDフィルムフェス - AI Creators' Junction -」が開催されました。上映は無料、主催者のyachimat氏が経費を自ら負担する透明な運営で多彩なクリエイターのAI映像作品が披露されました。クリエイター同士の深い交流が期待されるこのイベントを主催者の一人であるAICUコラボクリエイター 来夢ライトさん (X@Limewritelight) による寄稿でトークセッションを中心にレポートします。

https://aicd-film-fes.lovable.app/

 

すべてはWAIFFの悔しさからはじまった

まず最初に、AICD FILM FESTIVALは、少し特別な経緯で生まれたイベントです。World AI Film Festival 2026 in KYOTO(以降略:WAIFF)にて、上映の機会を得られなかった作品たちがありました。
自分の作品もその一つです。

正直、悔しかった。

その夜、会場にいたファイナリストの皆さんと飲みに行って、そこで『絶対に映画館で自分たちの作品を流そう』という話になりました。

クリエイターによる、クリエイターのための映画祭としてこの上映会が生まれました。

「映画館のスクリーンで自分たちの作品を上映したい」という共通の想いが集まって、この自主上映会は生まれました。実行委員やスタッフの皆さん、作品を出品してくれたクリエイターの皆さん、そしてカンパによってこの活動を支えてくれた皆さん。多くの人々がその想いを繋いでくれたおかげで無事実施することができました。
この場を借りて御礼申し上げます。本当にありがとうございました!

当日24作品の上映を終えた後、ファイナリストから選ばれた3名のクリエイターと、モデレーターを務めた私(来夢ライト)の4名でトークセッションを行いました。

テーマは「AI映像制作の現在地」。

技術の話だけでなく、クライアントワークの実態、映画祭の振り返り、など、約1時間かけて話しました。会場にいなかった方にも、あの場の熱量と正直さが少しでも伝われば、と思ってこのレポートを書いています。

登壇者&モデレーター

橋本 伸吾さん:実写CMディレクター。AI動画制作会社「株式会社GEN CRAFT」共同設立者。AI映像への着手は2023年。AI映像への着手は3年前で、会社としてAI CMをすでに累計20本以上納品しています。出品作は『TOKYO LIMINAL』

あいゔさん:CMディレクター兼音楽制作者。2015年という早い段階からAIに触れ、現在は自分で楽曲を作り、全曲のミュージックビデオも自作してApple Musicで配信する活動をされています。
出品作は『TOKYO GREAT WALL』

KHAOS COMPOSITIONさん:映画・ドラマ・アニメの予告編やCMを16年手がけた映像編集者。AIとの本格的な出会いは2025年10月。
出品作は『THE ALEUTIAN TITAN』

来夢ライト:映像ディレクターとして活動中。今年4月にAIクリエイティブディレクターとして専業化。今回のモデレーターを担当しました。
出品作は『旅の続きは、あの世でまた』

なぜAIを始めたのか

まず4名それぞれの「きっかけ」を話してもらいました。
橋本さんは、CMディレクターとして表現の幅を広げようとAfterEffectsやBlenderに挑戦したことがあるそうです。でも、どちらも習得できなかった。そこにMidjourneyとRunway Gen-2が登場しました。

橋本「撮影や自主制作って大変じゃないですか。これだったら自分でもできるなって思ったんです」

その後、短編の自主制作を重ねるうちに広告会社との繋がりが生まれ、やがて GEN CRAFT.inc を共同設立。スキルアップのために触れたツールが、気づけば仕事の核になっていた、という流れです。

https://gencraft.jp/

あいゔさんは2015年からすでにAIに着目していました。CMディレクターとして「クライアントワークのゼロイチではない難しさ」を感じながら、2024年半ばに音楽制作へと軸足を移します。自分で10曲作り、そのミュージックビデオをすべて自作してApple Musicで配信中とのこと。セカンドアルバムの制作も視野にあると話してくれました。

KHAOSさんのきっかけは、クライアントワークでAI素材が必要になったことでした。俯瞰ショットやエンドロール素材など「予算がないけど必要」という領域をAIで補完したのが最初です。

KHAOS「自分ではたどり着けなかったところに、AIと相談しながら作ることで、自分が拡張されるのがすごく楽しい」

映像制作、SE制作、音楽制作と、複数のAIツールを組み合わせることで「一人で監督をやっているような感覚」が生まれていると話してくれました。

私(来夢ライト)自身は、AIに仕事を奪われるんじゃないかと不安を感じながら、2025年5月に「Veo3」を触り始めたところから、AIでの映像制作にハマっていきました。10月以降積極的にAIコンテストに参加していったことでXを中心に活動の幅が徐々に広がり、2026年4月にAIクリエイティブに特化したフリーランスのディレクターとして活動しています。


できることは増えた。でも現場は七転八倒

AIツールの進化について、橋本さんはこう話しました。

橋本「技術的には、もう何かできないという感じはあまりない」

gencraftはAI CMをすでに20本以上納品しています。技術的な上限が急速に上がっていることは、数字としても伝わってきます。ただ同時に、橋本さんはこうも言っていました。

橋本「毎案件、七転八倒している」
共有される「AIの特性とクライアントの期待のズレ」

原因は技術的な問題ではなく、AIの特性とクライアントの期待のズレにあります。KHAOSさんが話してくれたことが、現場の実態をよく表していると思います。

KHAOS「クライアントさんからの要望を忠実に再現するのは、AIはめちゃくちゃ苦手。コンセプトを決めてもらって、あとは自由に作らせてもらうところが一番、のびのびといいクオリティのものができる」

来夢「修正回数を最初に決めておかないと、AIなら後から直せるでしょという感覚でどんどん変更が入って、収拾がつかなくなります。特に企業案件では修正回数と追加費用のルールを明確にしてから進めるようにしています」

AIは修正の後戻りコストが読みにくく、全面作り直しになりやすいという特性があります。初期の段階で期待値を合わせることの重要さは、クライアントワークをやっている4人全員が感じていることでした。

会場でもよく笑いが起きたのが「ガチャ地獄」という言葉です。同じプロンプトでも毎回結果が違う。狙った絵を出すための試行回数が、そのままコスト増に直結する。この感覚は、AI映像制作を続けている人なら誰しも覚えがあるはずです。


AIで人間を描くことの、特異な難しさ

橋本さんの出品作『TOKYO LIMINAL』には人間が出てきません。妖怪を描くという選択の背景を聞いたら、AI生成での人間表現への不安があると話してくれました。

橋本「フィルムライクな映画的表現に興味がある。ただ、人間の自然な芝居を出すのはまだ難しい」

声はプロの声優さんを5名起用していて、費用だけで10万円。TTSの自然な演技はまだ限界があるというのが正直なところのようです。あいゔさんも同じ見方でした。

あいゔ「パロディやコメディは受けやすい。でも、本当にオリジナルな部分って何なのかを模索しなきゃいけない」

来夢「WAIFFに向けて日本語の自然な芝居にこだわった作品を作ってみました。出た結論は、現時点では予算があるなら役者がやった方がいい、です。AIは万能ではなくて、まだまだ不得意なところもある。最適解としてハイブリッドで作っていくのが今の自分のスタンスです」

長尺や会話劇における一貫性の維持も課題として出ました。背景がカットごとにズレたり、キャラクターの細部が変わったりする問題は、純粋なAIだけで解決しようとすると編集コストが跳ね上がります。設計段階での工夫か、部分的に実写を組み合わせるかという判断が、制作の現場では求められます。


自主制作と、クライアントワークの間

クライアントワークと自主制作の違いについては、あいゔさんの言葉が印象的でした。

あいゔ「昔はアニメーション映像作家のムーブメントがあって、賞を取ったり盛り上がったりするんだけど、稼げなかった。だからみんなディレクターに転向した。AIならば、稼ぎながら自分の表現を突き詰めていく可能性がある」

クライアントワークは「要望の忠実な再現」という点でAIの不得意領域とぶつかりやすく、自主制作は「素材先行・スピード・コスト効率」という点でAIの得意領域と親和性が高い。この使い分けを意識するかどうかで、仕事の質も体験も大きく変わってくる、という話に会場も頷いていました。


WAIFFの振り返り

今年の本国のWAIFFでグランプリを獲得したのはフランス作品の『Costa Verde』でした。あいゔさんが「なぜ日本作品が受賞できなかったのか」という問いを投げかけて、そこから議論が広がりました。

橋本「AIでここまでやってすごい、という頭で見る段階から、次年度はそこが減るんじゃないか。『Costa Verde』は一見AIとわからない。それがアドバンテージになった可能性がある」

https://www.youtube.com/watch?v=qDsDUE5en0E

技術的なすごさへのボーナス点はなくなっていく。審査の軸が、純粋に作品としての面白さや脚本の強度に移っていくという見立ては、参加者の間で共通していました。

来夢「AI限定の場所だけで戦うのは、今後は意味が薄くなると思っています。作品の特性に合わせて出す場所を選ぶ。それだけのことですが、その判断が大事になってきます」

KHAOSさんも次回WAIFFに向けて「今回は気晴らしが出発点だったけれど、次は意志を持って作る。今からすでに準備を始めている」と話してくれました。今回の経験が、次の作品への動機に変わっている様子が伝わってきました。


実際、いくらかかるのか

会場から「短編一本、実際のコスト感は?」という質問が出ました。
来夢「動画生成のKlingだけで約4万クレジット。月のウルトラプラン換算で7〜8万円程度です。Seedanceを使う場合はさらに変わってきます」

橋本「クレジット費用が10万円台前半で、声優さんへの費用が5名で合計10万円ほどです」

KHAOS「3分の作品で約10万円でした」

決して安い数字ではありません。ただ橋本さんのこの言葉は、今のAI映像の立ち位置をよく表していると思います。
橋本「五十万円集めたら俳優を雇っていいドラマが作れるなら、AIでやる必要はない。自分が集められる予算の中でクリエイティブをやりたいなら、AIは今のところ最も実用的な選択肢です」
スピードとコスト削減。現時点でのAI映像の最大の強みはやはりここにあります。


「AIクリエイター」というラベルの賞味期限

セッション後半の質問コーナーで、「7月から無職になる。AIクリエイターとして活動していけるか」という話が出ました。

来夢「AIクリエイターというタグは、三年以内に終わると思っています。AIに頼るだけでなく、いかにクリエイターになっていくかが大事。新しい技術が来たとき、今までの経験が無に帰すことになっても、そこにワクワクできるかどうかが重要です」

橋本「映像の文法の勉強、脚本的なストーリーテリング。技術じゃない方の勉強がめちゃくちゃ大事ですね」

あいゔ「脚本を入れたら映画ができる、アルバムタイトルを入れたらアルバムができるようになるなら、我々は何を作るのか。何を考えることがオリジナリティなのかを突き詰めることになる」

KHAOSさんは、参入障壁が下がること自体をポジティブに見ていました。
KHAOS「デザイナーが動画を作り始めたら全然違うものができる。音楽をずっとやってきた人が動画を作ったら、また全然違うものが生まれる。沼にはまった人が映像クリエイターになっていく循環は、すごく健全だと思います」

異分野からの視点が映像そのものを変えていく、という話は、会場でも大きな共感を集めていました。


最後に

このトークセッションを振り返って、改めて思うことがあります。
AIは映像制作の入り口を確実に広げました。でも、何を表現するかを決めるのは、やっぱり人間です。AIは予想を遥かに超えたスピードで進化しています。正直、一年後の世界は、全く予想がつかない状態になっているかもしれない。それでも、表現したいものを持っているクリエイターが面白い作品を作る、という構造は変わらないと思っています。

今回の3名をはじめ、会場に集まったクリエイターの皆さんが、AICD FILM FESTIVALという場をこれだけ豊かにしてくれました。映画祭では叶わなかった「映画館のスクリーンで自分たちの作品を上映する」という瞬間が、クリエイターたちの手によって実現したこと、それこそがAI時代に必要なことを体現しているのではないでしょうか。

登壇してくださった橋本さん、あいゔさん、KHAOSさん、本当にありがとうございました。そして会場に来てくださった方、この記事を読んでくれた方々に感謝を込めて。

AICD FILM FESTIVALは、第2回・第3回と続けていく予定です。また同じスクリーンの前で、一緒に作品を分かち合えたらと思います。
それでは、また別のイベントでお会いしましょう!

来夢ライト

https://note.com/aicu/n/ncf37bb07c4f3

#AICDフィルムフェス

Originally published at note.com/aicu on Jun 15, 2026.

AICU Japan

AICU Inc. AIDX Lab - Koto

Comments

Related posts

Search 創造のサイクルを守るために:2026年上半期までの生成AI社会問題まとめとJASRACの新たな方針 #生成AIの社会と倫理