AICU Log 20231114

日本時間2023年11月14日、AICU代表・白井暁彦によるコーポレーションブログです。OpenAI DevDay振り返りと今後の生成AI市場におけるAICUの活動方針、生成AIに期待される市場のエンゲージ、そしてAICU社のビジョンでありコアコンピテンシーである「つくる人をつくる」を実現するアウトプットのラインナップを紹介します。

11月6日、OpenAI DevDayにて数多くの新機能が公開されました。
弊社でも早急に丁寧な日本語訳と分析をさせていただきましたので是非ご一読ください。
https://corp.aicu.ai/ja/openai-devday-20231106

OpenAI DevDayふりかえり

今回のリリースの最大の衝撃はGPT4 Turboのリリース、その低価格化です。
APIの単価が下がることは我々のようなコミュニケーションAIアプリを開発会社としてはありがたいところですが、このままOpenAI社の経営が不安定になるということは望まれていません。ChatGPT5がリリース完了するまでの期間はそれなりに時間がかかるものと想像しますが、早すぎるリリース、早すぎる低価格化、そして(実際にチャットボットを運用しているとわかることなのですが)「そこまで安定していない」という点は懸念されるところです。

もう一つの注目すべき新機能が改善された関数呼び出し、「JSONモード」と「AssistantsAPI」です。
チャットボットを開発する上で、関数呼び出しとともに実装されたJSON応答は、文字通り無限の可能性を秘めている衝撃的な機能ではありましたが、実際の関数がどう呼ばれるのか、たとえば複数の回答を含めた問いかけに対する呼ばれる関数についてはブレがありました。JSONモードも同様で、必ずJSONを返してくれるという設計になれば、よりシステム間の接合が確実になります。そして「AssistantsAPI」です。これは非常に派手なデモをつくることが出来る可能性があり、OpenAI自身もそれをSNSでバズらせることを期待しています。

しばらくは面白いものが出てくると予想しますが、実際の開発者の視点では「そこまでの多様性は出てこないのではないか」という予感もあります。なぜならAPIはアプリケーション開発を行うためのプログラミングインタフェースなのであり、APIとして提供するならば、その機能、価格、応答速度によって作られるUX(ユーザ体験)はある程度汎化されます。一方では先週紹介させていただいた「Goblin.tools」のような例は秀逸で、機能や応答速度、UXは非常に洗練されているだけでなく、「ToDoを分解する」という誰もが気づきそうで気づかないプロンプト芸を掘り下げている点が評価できます。しかも開発者の Bram De Buyserさん(インタビューしました)はこのWeb版をスマホアプリの売上によって無料で提供することを可能としています。

プロンプト芸だけではなく、実際に作って、主体者として実用に堪えるものを作り、さらにコスト的に改善する、という当たり前のループを繰り返すことが大事です。

AICU社のビジネスについて

AICUという会社も同様です。現在はまだスタートしたばかりで表面に出てくるような活動はメディア事業だけですが、開発、コンサル、書籍製作などで、特に「AIDXワークショップ」について、非常に興味深いお客様からのエンゲージを頂いております。

特にその業界のトップのグローバルで勝負できる企業さまからの真剣な相談を多く頂いております。
(この話はいくつかの企業さんのつぶやきをうまくブレンドして表現させていただいております)

たしかに多くの企業さんではそれなりの開発チームを擁しています。社内でもOpenAIをはじめとして「AIの使い手」がチラホラと見えるようになってきました。大きな会社のソリューションや提案などもたくさんありそうです。しかしOpenAIを基盤としたサービスがどんどん進展して、実際にB2BのエンタープライズITプロジェクトとして、大きな予算を出して何か開発できるようになったとしても、OpenAIに価格の基盤や開発の基盤を揺るがされてしまうと、なかなか難しいです。そもそも3ヶ月~半年毎のリリース速度についていくことが難しく、せっかく作ったモジュールもOpenAIそのものに設計から破壊されていきます。OpenAI自身が数カ月後にはもっと安いサービスをプレビューで出してくる、というのが現状です。

生成AI時代のエンタープライズ開発の難しさ

結局のところ、大きな座組では何も作れない期間が続くのではないでしょうか。
設計やPoCを回している間に、基盤がアップデートされてしまいます。
調査や設計、予算獲得やPoC開発を回している間に、小さなチームでスキル平均値とディシジョン速度が速い技術PoCをつくるチームを作っていく必要が明らかになってきています。小さなチームで作らないと、大きな座組では、できあがったサービスの収益が、開発費用を常に上回ってしまいます。
非開発のBizDev分野でも同様です。ちょうどChatGPTの月額費用やAdobeの月額費用みたいなベースコスト、どんどん出てくる新規サービスの調査費用が個人で払えるかどうか?が重要であり「そのサービスを使って生み出す付加価値」が、月額費用を上回っているかどうかを精査する時間がなくなっていきます。

特に『AIで省力化』を売りにするプロジェクトは、どんどんやせ細っていく運命を感じています。単価がどんどん下げられていきますし、人々は驚きに定常的なお金を払いません。「よくわからないけどすごいんだよね」「AIで省力化したら安くなるんだよね」という相手から、いままで以上の売価を得ることは難しくなるでしょう。
他でもない私はPhotoshop2.0から20年来Adobe製品を使っていますが、最近はAdobe製品(Illustrator、Photoshop、Premiere、Acrobat)とクリエイティブAIの知識、私のスキルだけで外注費用はほぼゼロになってしまいました。むしろその予算があれば、優秀な学生インターンに使い方を教えたほうが確実に付加価値になります。

なので弊社のビジョンは「つくる人をつくる」、なのです。

つくる人をつくる「AI開発で魅力的な職場づくり」という方法論

別の方向で説明します。「AI開発で魅力的な職場づくり」という視点です。
最近では多くの会社さんの中でChatGPTなどを使いこなす社員さんが登場しています。
(AICUはChatGPTだけでなく、画像生成AIや毎日ようにブログを書いて社会に発信していますが)

(1)  スキルの高い「AIの使い手」が現れてくる
(2)  その人がどんどん改善をする/もしくはPoC提案をする

ここまではいいですね。共感します。しかし最近は生成AIの使い手は社内で遊離している様子も伺えます。
進化速度があまりに速すぎるのです。知識のスピードが追いつかないので、社内の組織づくりも追いつきません。「一部のスキモノ」と呼ばれる人たちだけが「おまえはスキでやってるんだよな」という感じで、どんな驚きのあるPoCを作っても、響かない、事業として前進しない状況が多く続いています。それどころか法務や広報といった方々に「生成AIって違法なんでしょう?」とか「これって商用利用できないですよね」といった言葉を投げつけられています。そうです、イノベーションは理解者が少ないのです。

(3-1) 社内での理解者が少ない→(1)は会社を離脱する
(3-2) 理解者を社内で増やす活動ができれば、平均値は上がる、ただし(1)さんのやりたいことはあまり進まない

というところに組織としてのパラドックスが生じます。

ここで
(3-3) AICU社がアドボケイトやワークショップで入ることで、社内の平均値をぐっと上げる
という活動をさせていただいております。

AICU社のアドボカシーサービスとは

アドボケイト、アドボカシーとは、もともと代弁・擁護者(advocate)という意味ですが、この生成AIの時代において、最近は非常に多次元的な意味と価値が現れています。
NPSで10段階に表現するなら、ポジティブ>応援者>アドボケイトという関係で説明するとわかりやすいでしょうか。みなさんのお仕事を愛しているユーザーさん……のさらにその上の上の熱狂的な応援者、です。

まず社内ワークショップの場合、社員さんは常に会社組織の中での組織人としての立場が求められます。
イノベーションなのか、コストなのか、ミッションブレイクダウンなのか、チャレンジなのか。
会社組織の中では「押しくら饅頭」が発生します。しかも普段からこの押しくら饅頭は味わっているはずです。
この押しくら饅頭が本質でないことは誰もがわかっていることですが…。
弊社のVIP向け「AIDXワークショップ」は有償ではありますが、数時間の短い時間で経営者層にLLMや画像生成AI、そのサービス開発を触っていただきます。
ゼロをイチにすることで、スッと理解の解像度が高まり、社員のみなさんの会議時間を超圧縮します。
またこのワークショップは1回だけでなく、社員のみなさんに向けても実施します。
しかし我々は「AI製品を売り込むベンダー」ではありません!
道具を使うのは目的ではなく「つくる人をつくる」が我々のサービスなのです。
いままで頑張ってきた社員のみなさんをアドボカシーしつつ、社員のみなさんの「何でも質問してみよう」「主体者としてつくり手になってみよう」というところから、倫理面や法律面の迷いの多いポイントや不勉強を払拭し、対話の代弁者となり、無意味なブレーキを踏むことに一生懸命になることがない状態にします。
もう次のWindowsUpdateから、Bing検索もDALL-Eも入ってきますから、倫理や法律もアップデートされていく必要があります。利用規約のどこを読めばそれが確実になるのか、社員のみなさんの共通認識を高めて無駄な法律コストを圧縮しましょう。ChatGPTをつかって解釈や判断をスピーディにする方法であれば5分もかかりません。

そして、社外・世界のアドボカシーです。
我々AICU Incは基本的にオープンソースやオープンなブログなど、商業ブログで発信し続けています。
つまり超高速に流れていく生成AIのストリームに溺れることなく「社会の平均値」を言語化しているということになります。
溺れる人が組織や開発チームにいなくなれば、ディシジョンは速くなるし、検討コストも安くなります。
弊社の「AIDXワークショップ」は一見遠回りですが、体験機会を買うことでまず「やれるじゃないか」という空気と平均的な理解力が高まり、次に「優秀な人材が社外に飛び出していく可能性」が減ります。
むしろ生成AIの怪しげな商材やセミナーではなく、オープンな活動との距離感や接し方を掴むことで社内勉強会の運営方法を学び、外部の優秀なAI開発者・パートナーと出会いやすくなります。

AICU社はDCMの大学発ベンチャーである

さて、できたばかりの弊社はどうしてこんな事ができるのでしょうか。
それはAICU社が「デジタルハリウッド大学の大学発ベンチャーである」という点も大きく寄与しています。
1994年に開学したデジタルハリウッド大学は約30年の歴史を持つデジタルクリエイションの先進的教育機関です。世界中に数多くのクリエイターを送り出してきました。大学院は社会人学生が多く、デジタルコンテンツマネジメント(DCM)修士という学位をとることができます。

CEOである白井は、この大学院において「クリエイティブAIラボ(CAIL)」というラボプロジェクトを運営しています。
https://dhgs.shirai.as/
このラボは、クリエイティブAI時代に「サービスを作って技術書で発信する」というPDCAを回すことを活動のマニフェストにおいています。もともとそれぞれの産業分野で活躍してきた方々(IT、銀行、アーティストなどさまざまいらっしゃいます)、このような人材を「つくる人をつくる」「月額500円でも取れるサービスを開発する」「技術同人誌でいいので他人に自分が作ったモノを売る」という地道で泥くさい付加価値創出作業を手取り足取り指導することで、DCMを学校級ではなく「プロ級」に高めるだけではなく、今後数年に渡って業界をリードするような人材を育てています。これを方法論から実業にデプロイしたのがAICU社のAIDX Labです。

AICU社学生インターン募集中です
https://note.com/aicu/n/n8cbcfc2689b6

お近くに学生さんがいらっしゃいましたらお声がけください。海外学生も歓迎です。

今後の予定です

・Interbee/DCEXPO2023での講演:いよいよ明日です。定員の3倍の応募があったようです。頑張って準備していきます。会場には海外からのお客様と同行する予定です。生成AI、通信(6G)、放送などのプレイヤーを探していらっしゃいます。
https://corp.aicu.ai/ja/dcexpo2023

・デジタルハリウッド大学「近未来教育フォーラム」にてLT発表と上記同人誌の即売会がございます
2023年11月18日(土) 16:00-19:00 https://www.dhw.co.jp/forum/

・比較的大きなプレスリリースを用意しております

カバー画像は「a goddess of November」、一気に秋が深まり冬に突入しておりますね。
実り多き秋を味わいながら、寒さへの対策をしっかりとして今週も頑張ってまいります。

Akihiko Shirai

白井暁彦/しらいはかせ/AICU CEO。東京工業大学 知能システム科学 博士(工学) 。デジタルハリウッド大学大学院客員教授。メタバースR&D開発、VRエンタテインメントシステム、メディアアート研究、写真工学、画像工学、触覚技術、GPU応用、多重化ディスプレイ、体験の物理評価、国際連携を専門に画像生成の研究開発で30年近い経験を持つ博士(工学)。 日本バーチャルリアリティ学会 IVRC実行委員会、フランスLaval Virtual評議員、芸術科学会副会長。Hacker作家。インプレス「窓の杜」にて「生成AIストリーム」連載中。 2018年よりグリーグループ「GREE VR Studio Laboratory」にてREALITYに代表されるメタバースの未来開発を担当。数多くのメタバースにおけるUX知財を生み出してきただけでなく、子供向けワークショップ開発や先端研究を通したイノベーション型人材の育成、VTuber時代のクリエイター・ライブプレイヤーとして世界に向けた発信活動を行っている。 2023年より「つくる人をつくる」をビジョンにデジタルハリウッド大学発 米国スタートアップ企業「AICU Inc.」CEO就任。日米でクリエイティブAIコミュニケーションメディアを開発・発信しているする。 【著書】 「WiiRemoteプログラミング」(オーム社、共著)、「白井博士の未来のゲームデザイン ―エンターテインメントシステムの科学―」(ワークスコーポレーション)、「AIとコラボして神絵師になる 論文から読み解くStable Diffusion」(インプレス)、最新刊「画像生成AI Stable Diffusion スタートガイド」(ソフトバンククリエイティブ) 窓の杜「生成AIストリーム」連載中 https://j.aicu.ai/AIStream 【論文】 「床面提示型触覚エンタテイメントシステムの提案と開発」東京工業大学 第1535076号 平成16年3月26日「エンタテイメントシステム」芸術科学会(2004年) 全リスト https://researchmap.jp/akihiko/published_papers

Comments

Related posts

Search OpenAI DevDayリリース詳細
シリコンバレーからみた生成AI - Stable Diffusionの重要性 Search