AICUはるフェス2026 Day3 セッションレポート③
漫画編集者・佐渡島庸平 (X@sadycork) × AICU編集長・白井暁彦(しらいはかせ X@o_ob)対談AICU media ライターのEMKOがお送りします。
前回は、「1日4ページ」の訓練法と踊り場の価値についてお伝えしました。第3回は、佐渡島氏が明かした「分かりやすさ」の本質、漫画だけが持つ「心的時間」の技術、そしてAI漫画が超えるべき「紙芝居」の壁——すぐに試せる練習法とともにお届けします。
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一気読みはAICUマガジンVol.23にて!
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ハイコンテクストの罠——「型」を知らないと楽しめない
前回の最後に佐渡島氏が語った「分かりやすさが重要」という言葉。その中身は、想像以上に奥深いものでした。
佐渡島: 今、日本のコンテンツが全体的にハイコンテクストですよね。たとえば西洋の宗教絵画で、ドクロが置いてあると「死について考えさせよう」としてて、リンゴが置いてあると「罪について」とか、記号として意味になってる。それと同じで、今の異世界転生ものも「どういう仕組みで転生したんだっけ?」って誰もそこは突っかからずに読む。
白井: 歌舞伎もそうですよね。長い物語のクライマックスシーンだけをやってるから、ほとんどTikTokの切り抜きみたいなものですよね。
佐渡島: 型にハマってれば楽しめるけど、BLにしてもTLにしても、その作法がわかってないと読みづらかったりする。全体的にハイコンテクストなんですよ。
白井: 新しいメディアをやっていく時って、できる限りローコンテクストで始めた方がいいと。
佐渡島: そうですね。ただ、TikTok的な刺激的な「わかりやすさ」と、誰がいつ見てもわかる「おもしろさ」は違う。
刺激モリモリではなく、誰がいつ見てもわかるおもしろさ。AI漫画という新しいメディアをこれから広げていくならば、できる限りローコンテクストで始めた方がいいと佐渡島氏は語ります。
バイブスで作って満足していないか
白井: 自分が何を描きたいのか、AIを使ってまで表現したいものは何なんだろうっていうことかなと思いますよね。クリエイターとしてバイブスが上がってきて「これだ!」ってなるのはある。それは生理的な欲求としての「描きたいもの」。ただ、「お前は自分の命をかけてまでこのメッセージを伝えたいのか」っていうのが僕の師匠の質問で。
佐渡島: 作り終わったら満足してる人が多い。1日2日経って自分で読み直して、自分が感動できるかどうかですよね。
白井: ありますね。GitHubのリポジトリを見直して「こんなクソコード書いてる俺」みたいな。
佐渡島: だから大抵、自分の作品をゆっくり読み直せないですよ。作ることだけに集中しちゃってて、読んだ人がどう動いてどう感じるかまで考えているか。1つのセリフをもっと重く、もっと軽くとか。自分の心に持ってるものが一番大切で、それを届けたからまた次を作る、っていうのが繰り返されてるのがいい。
鳥の目と虫の目——ポスターとキャッチコピーを作ってみる
佐渡島: 作品ができたら、そのポスターとキャッチコピーを作ってみる。鳥の目で俯瞰して「この1話はどういう作品なんだろう」と考える。そのポスターから期待する作品と、実際の作品にズレがあったら、直すところが見つかる。
制作中は「虫の目」でディテールに集中する。しかし完成したら、一度引いて「鳥の目」で全体を俯瞰する。ポスターとキャッチコピーを作るという具体的な方法は、AIクリエイターにもすぐに試せる実践的なアドバイスです。
漫画の「心的時間」とは何か
ここから、対談は漫画表現の核心に入っていきます。
佐渡島: 僕らの心理的な内的時間って、めちゃくちゃ伸び縮みしてるんですよ。たとえば今、僕らが会話してる時に、初めの20分は結構長く感じるわけですね。1セリフ1セリフがキャッチボールで探り合いだから。でもそのうちキャッチボールが合ってくると、気がつくと時間が経っていた、という風に変わってくる。
白井: 体感時間ですね。
佐渡島: そう。『スラムダンク』の山王戦とかが、最後の5分間ぐらいがすごいページ数になってても、僕ら意外とおかしいと思わない。なぜかというと、スポーツ選手がものすごく集中してる時に時間が止まって見えるように、桜木花道の心的時間をコマ割りによって味わわされてるから。
佐渡島: 漫画のリズムって何なのかと言うと、複数のコマによる時間の変化を使うことで、心的時間を再現できていること。
1秒未満の感情の動きを、何ページもかけて描く。それが違和感なく読めるのは、コマ割りが読者の心理的な時間感覚をコントロールしているからです。
横<縦<斜め<めくり
では具体的に、コマ割りはどうやって時間をコントロールしているのか。
佐渡島: 横のコマ移動と縦のコマ移動では、時間の流れ方が違う。縦に動かした方が時間が経っている感じがする。上のコマから下のコマに移る時の方が時間が流れる。だから横のコマでトントントンと進むテンポで、縦に切り替えるとちょっと間(ま)を作れる。さらに、めくりの1つ手前の斜めはもっと時間があって、ページめくりはもっと時間がある。
白井: 横→縦→斜め→めくりの順に、時間の経過が大きくなると。
佐渡島: そう。だから感情のクライマックスをどのコマで、どのリズムで持ってこなきゃいけないかは超細かく決まってるんですよ。20ページの漫画だったら、感情のクライマックスは大体17ページ目か18ページ目の左下。大きいコマで感情が分かりやすくなってるとかっていうルールで回ってる。
https://www.aicu.jp/post/youkai-14
AI漫画は「紙芝居」になっていないか
白井: つまり、今AIで絵が作れる人たちがやってることは「紙芝居」になっていると。
佐渡島: そう。紙芝居は出来事による「引き」ですよね。「さあ、この事件の犯人は誰だ!」っていう感じの。それに対して、心の中の緊張感、心理的時間の動きを再現するのが漫画のコマ割り。紙芝居的なものと、心的時間を設計しているものは違う。
白井: 縦読み漫画だと見開きがないじゃないですか。そのルールってどうなってるんですか?
佐渡島: 縦読みだと、多くの場合は時間が均一なんですよ。動画を見てるみたいなもので、時間が均一に流れる。漫画は横と縦と斜めとめくりで、時間の流れが均一じゃない。
佐渡島氏が言う「紙芝居」とは、出来事の連続で読者を引っ張る構造のことです。「次に何が起きるか」で引くのが紙芝居。「登場人物が今何を感じているか」を読者に体験させるのが漫画。プロの漫画でも紙芝居的な作品はあるけれど、本当に心に残るのは心的時間が設計されたものだと佐渡島氏は指摘します。AI漫画の多くがまだ紙芝居の段階にある——この指摘は厳しくも、次のステップを明確に示しています。
「絵を全部消してごらん」——心的時間を鍛える練習法
佐渡島: 僕らが漫画家と打ち合わせする時って、真っ白なところに吹き出しがあるだけの状態で打ち合わせしたりするんですよ。漫画がうまい人のネームは、それだけで誰がどれぐらい喋って、体の動きがどんな感じで、どう展開していくか全部わかる。吹き出しの位置と大きさとセリフによって、「ここには主人公のアップが入って、ここは引きだな」とか全部わかるはずなんだけど、99%の新人漫画家の吹き出しにはそういう情報が載ってない。
白井:「絵を全部消してごらん」みたいな話、よくやるんですか?
佐渡島: よくやりますよ。たとえば『ドラゴンボール』とか、コマ運びがうまい作品の絵を全部消してネームだけ読む。ここにどんな絵が入るかを考えてみて、自分でラフを描いて原作と答え合わせする。「なんでこう違うんだろうな」っていう練習をさまざまな作品でやったりしますね。
佐渡島: 絵を描かないで、設計とテンポと構成を磨いていく。そういう工程がまさに今、AIに学ばせたいところなんですよね。でも全然できないですよ。
YOUKAIへのフィードバック——コマとコマの間
セッションでは、AI漫画作品『YOUKAI』に対する佐渡島氏のフィードバックも語られました。
佐渡島: コマとコマの間が他の漫画もう少しあるんですよね。ちばてつやとか小林まこととかだと、真っ白なコマの形を見ただけで分かる。枠線の太さをどうするか、間をどれぐらい開けるか。漫画家がアシスタント時代に徹底的に叩き込まれることなんです。レイアウトも「縦は何mm、横は何mm、太さは何mm、これは絶対守れ」と。
AI漫画は美しい絵を生成できるようになった。しかし、コマとコマの間に宿る「時間の設計」は、まだ人間の手で磨いていく必要があります。
次回予告
次回はAIが漫画をどう変えるのか。「赤ペンの作画修正を機械学習したら絶対役に立つ」という佐渡島氏の提言と、クリエイターの生存戦略をお届けします。
登壇:佐渡島庸平 / 白井暁彦(しらいはかせ)
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https://www.aicu.jp/post/magv23
Originally published at note.com/aicu on Apr 2, 2026.

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