AIが変えるもの、変えられないもの——佐渡島庸平×白井暁彦、最終回【AICUはるフェス2026 Day3 セッションレポート④】 Fes26Halu

AIが変えるもの、変えられないもの——佐渡島庸平×白井暁彦、最終回【AICUはるフェス2026 Day3 セッションレポート④】 #Fes26Halu

AICUはるフェス2026 Day3 セッションレポート④(最終回)
漫画編集者・佐渡島庸平 × AICU編集長・白井暁彦(しらいはかせ)対談
AICU media ライターのEMKOがお送りします。

前回は、漫画の「心的時間」とコマ割り、AI漫画の「紙芝居」問題についてお伝えしました。最終回は、AIは漫画の本質を学べるのか、そしてクリエイターの生存戦略——「XとTikTokでファンを作る」「作家の考え方を発信し続ける」という具体策とともにお届けします。

自分の気持ちを見ることの難しさ

心的時間とAIの可能性について語る白井氏(左)と佐渡島氏(右)

心的時間の話をさらに深く掘り下げる中で、佐渡島氏は人間の記憶の特性に触れました。

佐渡島: 自分の心の変化って、結構要約して記憶してるんですよ。例えば今日のこの1時間半を、夜になったら「面白かった」の一言で記憶しちゃうかもしれない。でも実際には10個以上の感情の変化があったはずで、それを滑らかに記憶しておくのは超難しい。

佐渡島: 『スラムダンク』って1秒未満の感情の動きを記憶しているから描けるわけですよ。日常で自分の心理的な変化に対して解像度が高い人は、それをコマ割りに落とし込める。そうじゃないと落とし込めない。

人は自分の気持ちをメタ的に見ることが難しい。しかも記憶は要約される。その中で、1秒未満の感情の揺れを捉え、コマに落とし込む——それが漫画家の技術であり、AIにとっての壁でもあります。

AIは「心的時間」を学べるか

白井: ChatGPTとかがそういうのをできるようになるのかどうか?

佐渡島: 個人的な感覚としては、AIの学習データって大体テキストデータと写真やイラストデータで、僕らが漫画をどう読んでいるかっていう読解の仕方は、多分コマごとにちょっと説明を入れてあげて情報を整理してあげないとAIが学習できないと思うんですよ。

白井: その通りですね。僕の知り合いで漫画のアプリを作ってる人がいて、彼がやったのはまず文字を全部消すこと。セリフを分解して、表情や効果線を分析するっていうアプローチでした。

https://www.aicu.jp/post/gree-tech-20251026 

https://techcon.gree.jp/2025/session/TrackA-5

佐渡島: そういう漫画研究は20年ぐらい前からやってる人たちがいたんですけどね。

佐渡島: 表現媒体としてはすごい可能性を感じてるし、価値があると思って仕事をしてます。ただ金融や医療、建築など学習させるべきデータがいっぱいある中で、漫画にまでリソースが回ってこないっていう現実がある。

白井: そう。海外からもそういう話を聞くんですよ。金融で使えるネタが欲しいって言われ続ける一方で、日本で仕事するなら漫画とかアニメとかゲームの本当の方法論が知りたいと。シニアの人たちが赤ペンで入れてる作画修正、これを機械学習したら絶対役に立つって分かってるんですよね。

シニアの漫画家が赤ペンで入れる作画修正、編集者がネームに出すフィードバック——それを機械学習に活かせば確実に役立つと、2人とも分かっている。しかし市場が小さく、大手AI企業はまだ手をつけていません。

色の一貫性と感情カラー

会場からの質問をきっかけに、カラー漫画の話題にもおよびました。

佐渡島: キャラクターの一貫性がないってよく言われるけど、AIが色をつけた時にも色の一貫性がないんですよ。イラスト単体は成立してるんだけど、作家性としての色の一貫性のデータがまだ全然学習されてない。

佐渡島: たとえば『宇宙兄弟』のオールカラー版が出てるんですけど、ムッタの肌の色って場所ごとに全然違うんですよ。室内か屋外か、重い気持ちの時は肌色にブルーを混ぜる。別のシーンだと紫を混ぜるとか、作家が細かく指定してる。

白井: 感情とセットのカラーがあるんですね。

佐渡島: そう。『ちびまる子ちゃん』のアニメでも「ガーン」って時に青くなったりするじゃないですか。カラーの方が感情は瞬間的に伝わるはずなんだけど、AIだとまだ感情とセットの色設計ができない。そこができるようになると、カラー漫画はもっと読みやすくなるだろうなと思いますね。

AIが生成するイラストは、1枚ごとには美しい。しかし、シーンを通じた色の一貫性や、感情に連動した色の変化は設計できていません。色は単なる装飾ではなく感情表現の一部なのです。

全工程の100のうち、人がやるべき部分

佐渡島: 世間の多くの人は動画で見るだろうなと思います。全工程を100とした時に、0から30ぐらいまでは必ず人がやる。30から80ぐらいをAIでやって、残りの仕上げを人がやるという形が多くなるだろうなと思ってます。

佐渡島: 小説とか漫画をしっかり作っちゃって、TikTokで運用するための動画をAIに作ってもらうことによって若者にリーチするとか。物づくり自体にはAIをそこまで入れないんだけれども、多くの人にリーチさせるための他メディア展開にAIを使うっていう考え方かなと思ってますね。

0から30は企画・設計・コアとなる表現。30から80は作画・彩色・レイアウトなどの制作工程。80から100の仕上げ、つまり最終的なクオリティチェックや感情の微調整は、再び人間が担う。この「人→AI→人」のサンドイッチ構造が、佐渡島氏が見据えるAI漫画の未来像です。

作品ではなく「人」にファンをつける時代

佐渡島: 出版社に頼って作家がやってると、ヒット作の次がまったくヒットしないんですよ。作品にしかファンがついてなくて、作家にファンがついてないんで。

白井: 声優さんとかも同じですね。作品ごとについてしまう。

佐渡島: そう。ほとんどの漫画家も、2作目3作目をしっかり追ってくれる人っていない。だから今、うちで管理してるファンが15万人ぐらいいて、有料でコミットしてくれてるのが2万人ぐらいいる。

佐渡島: この2万人に対して、作家がアシスタントとどんなコミュニケーションを取ってるのかとか、どんな考え方で作品を作ってるのかとか、映画を見たらどんな感想を言うのかとかを全部発信してるんですよ。そうすると、作家の物づくりに興味がある人を用意できてるんで、次回作も応援してくれる。

佐渡島: ほとんどのミュージシャンも、大ヒット曲をライブでも歌ってくれって言われて、新しい挑戦ってなかなか応援してもらえないじゃないですか。でも作家の生き方とか考え方を読者にずっと伝えてると、新しい作品自体を応援してもらえる可能性がある。

白井: 黙っとくのは損なんだってことですね。

X+TikTokで自分のファンを持つ

佐渡島: 生成AIを使ってる人たちは、本当にXとTikTokでやってフォロワーを増やしておくっていうのが、最終的に一番いいビジネスなんじゃないかなって気がしますけどね。

白井: 見開きは意識しなくていいんですか?

佐渡島: Xで流れてるような4画像形式のページ漫画でいいと思いますよ。0ページ目にどういう漫画か分かるようなものを出しながら、1、2、3、4と出して、続きを見たかったら有料で、みたいな形になってるじゃないですか。

佐渡島: 昔、タレントはテレビじゃないと食べていけなかった。10年前だとYouTubeは子ども向けタレントだけだろうって思われてたけど、今はテレビに出て有名になるよりYouTubeの方が早いよねってなってる。コンテンツの課金もそうなるんじゃないかなって気がしますけどね。

出版社を通さなくても、SNSで直接ファンとつながれる時代。テレビからYouTubeへの移行と同じことが、漫画の世界でも起きつつあります。

「課題をクリアするたびに、おもしろい」

セッションの最後に、会場から印象的な質問がありました。「内面を掘り下げ続ける制作スタイルの中で、モチベーションをどう保つのか」という問いです。

佐渡島: 基本的に、完成した作品が売れるかどうかにモチベーションを持ってると枯れちゃいますよね。ほとんどうまくいかないし、うまくいっても思ったほど幸せじゃないなってなる。それよりも、技術習得の中に課題を見つけて、それをクリアするたびにおもしろいっていう風に思ってる人が続くなと思います。

佐渡島: 生成AIでも、「次これをできるかな、次これをできるかな」っていう課題を自分で見つけてクリアしていくといい。漫画を描く時も、自分なりの細かい課題を見つけていってると、続けられると思いますね。

結果ではなく、プロセスの中に楽しさを見つけること。この答えは、第2回で語られた「体力」や「踊り場の価値」ともつながる、一貫したメッセージでした。

『宇宙兄弟』のこれから

セッションの最後に、白井氏は『宇宙兄弟』の話に立ち返りました。

白井: 『宇宙兄弟』のタイトルってどうやって決まったんですか?

佐渡島: 僕が小山さんに「宇宙」と「兄弟」っていうお題を出したんですよ。それで小山さんがネームを描いてる時に、ずっと「宇宙兄弟」って書いてて。1年間ぐらいごちゃごちゃやって3話目ぐらいがやっとできた時に、「そろそろタイトル考えようか」って言ったら、小山さんのメモにずっと「宇宙兄弟」って書いてあって。「あれ、これタイトルっぽくないですか小山さん」って。

白井: がっつりタイトル会議しようとしてたのに?

佐渡島: 5分で決まりました。

18年間、一度もブレることなく「宇宙兄弟」であり続けた作品。そのタイトルは、企画会議ではなく、作家の手元のメモから自然に生まれたものでした。
そして佐渡島氏は、完結後の展望についても語りました。

佐渡島: 連載していると更新があるので、単行本が出るたびに宣伝チャンスなんですよね。でも終わってないから評価が固まらない。評価が固まっている作品の方が、ものとして売りやすいっていう考え方もある。

佐渡島: うちみたいなIP会社にとっては、終わってる作品の方が運用しやすい。本当の編集者としてのビジネスのスタートラインに、やっと立てるなって感じですね。

白井: これからの『宇宙兄弟』は、ここから始まる部分もあると。

佐渡島: そうだと思ってます。ビジネス的にはね。
18年間の連載が完結する。しかし佐渡島氏にとって、それは終わりではなく始まりでした。作品を作ることと、作品を届け続けること。このセッション全体を通じて語られてきたテーマが、『宇宙兄弟』の未来にもそのまま重なっています。

アーカイブ動画

セッション「漫画×AIの最先端!? 持ち込み歓迎 プロ編集者はココを見る!」のアーカイブ動画は以下からご覧いただけます。


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登壇:#佐渡島庸平 / #白井暁彦 (#しらいはかせ)
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Originally published at note.com/aicu on Apr 4, 2026.

AICU Japan

AICU Inc. AIDX Lab - Koto

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