近未来教育フォーラム(4)岡瑞起「人工生命研究から未来を創る」

近未来教育フォーラム(4)岡瑞起「人工生命研究から未来を創る」

デジタルハリウッド株式会社主催の近未来教育フォーラム 2024 が、"The Great Transition〜ポスト AI は来ない〜"というテーマで開催されました。その中で行われたキーノートの様子をお伝えする連載の第 2 回。

本レポートでは、岡瑞起氏の講演「AI時代のコミュニケーションと民主主義人工生命研究から未来を創る — Open-endedness と創造の可能性」の内容を、AICU 編集部の hikonyan が要約してお伝えします。

講演概要

岡さんは筑波大学准教授であり、人工生命(ALIFE)研究の最前線で活躍されています。今回は、人工生命研究の知見と Open-endedness (オープンエンド;終わりのない)の概念から、未来の創造プロセスと社会のあり方を探ります。創造性の概念がどのように変化していくのか、その未来像を Picbreeder とルンバを例に提示しました。

岡瑞起(おか・みずき):研究者。筑波大学システム情報系 准教授/株式会社ConnectSphere代表取締役。2003年、筑波大学第三学群情報学類卒業。2008年、同大学院博士課程修了。博士(工学)。同年より東京大学 知の構造化センター特任研究員。2013年、筑波大学システム情報系 助教を経て現職。専門分野は、人工生命、ウェブサイエンス。著書に『ALIFE | 人工生命より生命的なAIへ』(株式会社ビー・エヌ・エヌ)、『作って動かすALife – 実装を通した人工生命モデル理論入門』(オライリージャパン)などがある。

https://www.dhw.co.jp/press-release/20241018_kkmf2024/

AI 時代のコミュニケーションと民主主義人工生命研究から未来を創る — Open-endedness と創造の可能性

Picbreederの事例

岡さんは Picbreeder というWebシステムを例に説明を始めました。 Picbreeder は、 AI が生成した複数のピクチャーから人間が 1 つを選び、それを基に新しいバリエーションを生成するプロセスを繰り返すシステムです。

https://nbenko1.github.io/#/

https://note.com/mizuki_oka/n/n369826e39d56

最初にコンピューターが 15 枚のピクチャーを生成し、その中から人間が好みの 1 枚を選択します。例えば、真ん中の絵を選んだとしましょう。その選択されたピクチャーを親として AI が新たな 15 枚のピクチャーを生成します。この AI が絵を作り、人間が選ぶプロセスを繰り返すことで、抽象的な画像が徐々に具体的なものへと変化していきます。

この具体的な絵にたどり着けるというのは、実はすごいことだと岡さんは話します。例えば、骸骨のような具体的な絵を作る場合、人間は抽象的な画像から始め、 74 回の選択でその形にたどり着くことができます。一方で、 AI が独自に設定されたゴールに向かって数万回試行しても、同じ結果には到達できないそうです。

Picbreeder のプロセスで特に興味深いのは、創造性の軌跡が予測不可能である点です。 AI は全ての生成プロセスを記録しますが、面白い絵につながるまでの途中のステップと最終結果の関係は、絵を見ても直感的に理解できないことが多いです。そのため、最適化に向かって一直線に進むみたいな AI アルゴリズムで行こうとしても全くたどり着きません。一方で、人間の選択プロセスは一見ランダムに見えるものの、実際には何らかの直感的なようなアルゴリズムが働いており、 AI では見つけられないルートを発見します。

Picbreederの事例から得られた知見

実際にいろんな分析やアルゴリズムでいろいろ試した結果、その発散的な探索をするために何を避ければいいか、いくつか知見が得られているそうです。まず 1 つは、「みんなが良いと思うものを選ぶことを避ける」ということです。例えば、SNSの「いいね」が一番多かったもののように、最も支持された画像を基準に選択を進めると、多様性が失われ、最終的にみんな同じようなちょっと綺麗な抽象的な絵に収束してしまいます。

なぜかと言うと、まずみんな自分の絵を選ぶときに、他人のこと、他人がどれを選ぶか関係なく、自分の直感だけで選択を行う点にあります。 Picbreeder では、選択時に他の人の選択状況や支持数が表示されない仕組みになっており、これにより純粋に個々の感性で選ばれた結果が次の絵を生み出します。「だから自分の直感、誰にも影響されないところでその絵を選ぶってものすごく重要ってことです」と岡さんは説明しました。

もう 1 つの得られた知見は、「目的を持たずになんとなくやること」が重要であるということです。このシステムを使用していると、多くの人が 20 回ほど選択を繰り返すうちに飽きてしまいますが、そこまでの結果を保存しアップロードできる仕組みがあります。このプロセスにおいて、特定の目標を設定し、その目標に向かって選択を進めるのではなく、ただなんとなく進めるほうが意外と興味深い結果にたどり着きやすいのです。

特に、何か難しい目標を達成しようとしている場合ほど、明確な目的を持たないほうが、探索の過程で目的達成に繋がる新しいアイデアや結果を見つけやすくなるそうです。

「なんとなく」のほうが良い? ルンバの事例 

その例として、岡さんはロドニー・ブルックスさんたちの例を説明しました。人工生命の分野のパイオニアと言われる研究者ロドニー・ブルックスさんたちが設立した iRobot 社の初期の活動は、現在のルンバのような掃除ロボットを作ることが目的ではなかったらしいです。当初、彼らは社会に役立つロボット技術を活かした会社を設立したものの、ニーズや製品販売の経験、スキルが不足していたため、受注型のプロジェクトを中心に活動していました。

その中で、商業施設向けの掃除ロボットや、地雷除去ロボットのような政府向けプロジェクトに取り組み、さらにおもちゃロボットの大量生産を通じてコスト削減や製造技術を習得しました。これらの経験を積む中で、社員の提案により、これらの技術を組み合わせて掃除ロボットを開発するアイデアが生まれ、現在のルンバの構想が初めて形になりました。

もし iRobot 社が最初からロボット掃除機の開発を目標としていたら、現在のルンバのような形は生まれなかったかもしれません。なぜかと言うと、ロドニー・ブルックスさんたちが過去に開発していたロボットは、空き缶を捨てるロボットで、カメラやアームを備え、部屋をスキャンして空き缶を見つけ、ゴミ箱まで運ぶという機能を持っていました。「この状態から掃除ロボットを作ろうとしていたら、 100 年前のフランスで掃除をするロボットってどうなのかってことを想像してこんなの作れないですよね」と岡さんは言いました。

つまり、ルンバの事例から考えると、最初から特定の目的に向かって現在の技術だけでやろうとすると、本当に達成したい目標にはなかなか到達できないということが考えられます。

創造性の未来

ポスト AI は来ないということなので、 AI が社会的役割を終えて消えることはないでしょうと岡さんは言います。最後に、次のように語りました。

「 AI が人とのコミュニケーションに入ることで、今まで可能じゃなかったようなスケールのコミュニケーションができるってことは本当にそうだと思います。さらにその創造性っていう人間の専売特許と思われていた領域にさえ、 AI と人間のそのインタラクションに新しい創造性の未来はあるんじゃないかなという風に思っています」

まとめ

岡さんの講演は、創造性の概念がどのように変化していくのか、その未来像を Picbreeder とルンバを例にわかりやすく説明されていました。自分の直感を信じて選び、漠然とした目的でいたほうが、 AI で生成されるものに創造性が生まれるというのが意外で興味深いですね。 AI 技術の進化が、未来の創造性にどう影響していくか、今後も注目していきましょう。

今回は岡さんの講演の様子をお伝えしましたが、安野貴博さんの講演の様子をまとめた記事を公開中! 気になった方はぜひご覧ください。また、安野さん×岡さん×藤井直敬卓越教授トークセッションの様子も後日記事を公開予定です!

https://note.com/aicu/n/n366181c8f334

#近未来教育フォーラム #教育 #AI #人工知能 #TheGreatTransition #デジタルハリウッド #岡瑞起

Originally published at https://aicu.jp on Jan 9, 2025.

AICU Japan

AICU Inc. AIDX Lab - Koto

Comments

Related posts

Search 「画像生成AI Stable Diffusionスタートガイド」(第3刷)に最新のLoRA生成情報を収録しました
たった1枚の画像から秒速で3Dを生成!Stability AIの「Stable Point Aware 3D」発表、Fast 3Dとの違いは? Search