2025年12月13日、YouTube上で「AIショートフィルムフェス2025」審査ライブが開催されました。日本人が開発した最新の動画生成ツールと、そのコンテスト。優秀作品に贈られる総額90万円の賞金もゆくえも気になりますが、先端の審査員同士のトークも大変興味深いです。
オープニング・審査員紹介
市川:皆さんこんにちは。「AIショートフィルムフェス2025」発表会場へようこそ。TechWorldの市川と申します。よろしくお願いいたします。
市川 達大. TECH WORLD代表: 大阪大学 基礎工学部情報科学科卒→LINEヤフー→株式会社テックワールド代表取締役
普段はITエンジニア向けのメディアであるTechWorldで映画祭の結果発表を行うというのは珍しいことかと思いますが、もともと弊社でハッカソンを開催させていただいた際、中島聡さんに審査員長を務めていただいたご縁があり、今回共催という形で発表会をさせていただくことになりました。
本日のAIショートフィルムフェス2025は、一般社団法人シンギュラリティ・ソサエティ、株式会社テックワールド、株式会社まぐまぐの共催でお届けします。
さて、今年のフェスですが、まさに中島さんが開発された「MulmoCast(マルモキャスト)」を使って応募いただいたわけですが、全184本もの作品が集まりました。かなり集まりましたよね。
中島 聡 / MulmoCast 開発者
元マイクロソフト米国本社でWindows 95・Internet Explorerの開発に携わったエンジニア。現在はシンギュラリティ・ソサエティ代表として、AI・テクノロジーの未来を発信するトップランナー。 著書多数、最新AI技術の社会実装や未来予測に精通し、実践的な知見をわかりやすく伝えることに定評がある。
中島聡:そうですね、結構驚きました。最初は応募がちらほらで「これ集まるのかな?」という流れも若干ありつつ、最終的には184本ということで。締め切り間際にいっぱい来たので、最後に追い込みで見るのが大変でした(笑)。
市川:ありがとうございます。本日はその中から4つの部門賞と、最終的なグランプリを発表させていただきます。
それでは審査員の皆様をご紹介します。まずは審査員長、MulmoCastの開発者であり、Windows 95/98のチーフアーキテクト、世界的なエンジニアでいらっしゃいます、中島聡さんです。
中島:よろしくお願いします。
市川:続いて、株式会社コルク代表、『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などを手掛ける創作と編集の第一線で活躍されています、佐渡島庸平さんです。
佐渡島 庸平 / コルク代表。
『ドラゴン桜』『宇宙兄弟』『働きマン』など多数のヒット作を手がけてきた編集者。 2002年講談社入社後、「モーニング」「イブニング」で人気作品を担当。 2012年にクリエイター支援を目的としたコルクを創業し、作家の伴走型エージェントとして漫画・小説・映像企画まで幅広いクリエイティブをプロデュース。 映像化・海外展開・コミュニティ運営など、作品の価値を最大化する編集に定評がある。
市川:続いて、AICU Inc. CEO、AICU Japan代表であり、デジタルハリウッド大学大学院客員教授、メタバースやAIの研究を牽引されています、白井暁彦さんです。
白井 暁彦
工学博士/AICU Inc. CEO/デジタルハリウッド大学大学院 客員教授
VRエンタテインメント研究の第一人者。世界初のゲームエンジン開発経て博士号取得。NHK、仏研究機関、グリーを経て現在は「生成AI時代に作る人をつくる」を掲げ、Stable Diffusion・ComfyUI等を駆使し映像表現の民主化する書籍やWeb/雑誌メディアを毎日発信。書籍『AIとコラボして神絵師になる』『Stable Diffusionスタートガイド』『ComfyUIマスターガイド』等ベストセラー多数。月刊アイキューマガジン編集長。AI日本国際映画祭での基調講演などAI映画の最前線を牽引。
白井:AICUというクリエイティブAIメディア企業の代表をやっております白井です。よろしくお願いします。
市川:最後に、映像作家・演出家でCM、映画、ドキュメンタリーなど幅広い分野で活躍されています、オースミユーカさんです。
オースミユーカ 映像作家 / クリエイター
武蔵野美術大学卒。AOI Pro.でCM・デジタル領域の企画演出を経験後、フリーランスへ。 CM、映画、ドキュメンタリー、教育番組など幅広い映像制作に携わり、NHK Eテレやベネッセ作品など「子ども・教育」分野を得意とする。 カンヌ国際広告祭サイバーライオン銀賞、ベルリン国際映画祭正式出品、文化庁メディア芸術祭優秀賞など受賞歴多数。 慶應義塾大学・武蔵大学講師。主宰する「映像探究学習コンビビ」では、AIを活用したCM制作ワークショップを展開中。
オースミ:はい、オースミユーカです。よろしくお願いいたします。
審査員の総評・応募作品の傾向について
市川:まず初めに、今回集まった作品全体を通しての感想を一言ずついただけますでしょうか。
白井:AICUは「AIクリエイターユニオン」の略でもあり、クリエイティブAI関連の情報メディアを運営しております。普段からAI大好きなクリエイターが集まるコンテストを開催していますが、今回はかなり違う客層のプレイヤーが入ってきたなという印象です。そのギャップに「つらみ」を覚えつつも(笑)、全作品しっかり拝見しました。非常に楽しかったです。
中島:MulmoCastというツールは、もともと私が自分のYouTubeチャンネルを作るために開発したものでした。作っているうちに「もっと汎用化すれば他の人も使える」となってオープンソースで公開しました。ただ、APIキーを自分で取得しなければならないなどハードルが高く、そこで脱落してしまう人も多かったはずです。にもかかわらず184作品も集まったのは驚きです。今後はもっと使いやすくしていきたいと思っています。
佐渡島:僕はこれからのクリエイターの主体がかなり「AIクリエイター」になっていくだろうなと思っています。例えば漫画業界では、かつては大人数で作っていたアニメーションのような表現を、少人数や個人でSNS上で展開し、そこからNetflixなどが原作を探すようなビジネス形態になると予想しています。今回は、次世代のクリエイターを探したいと思って参加しましたが、全体としてはまだ「クリエイティブ」そのものより「新しい技術へのアーリーアダプター」の人たちが作った作品だな、という感触を持ちました。
オースミ:私は普段、CMなど実写の映像を作っていますが、1年前に中高生向けに「AIを使ってCMを作ろう」というワークショップをやったんです。その時は丸一日かけてヘトヘトになりながら1本作ったんですが、今回の応募作を見て、この1年でのAIの進化のスピードに驚きました。どれぐらいの工数で作っているのか気になりますね。
一次予選通過作品一覧
https://www.mag2.com/events/ai-film-fes2025/pass.html
ビジュアル部門 審査・発表
市川:それでは各部門賞の発表に移ります。まずは「ビジュアル部門」です。映像の美しさ、絵の完成度、AI映像としての到達点が評価される部門です。
ノミネート作品は『無名の人』、『50年後』、『Gravity』、『100万の「いいね」より、あなたの「1」』の4作品です。
白井:『無名の人』についてですが、僕は写真出身なので非常に共感しました。ストリートで写真を売ったり、部屋に帰ってきた時の重い感情だったり。今回の一連の作品の中で相当アイコニックでしたね。
中島:僕も『無名の人』には驚きました。自分でツールを作っておきながら「これは僕には作れないな」と。ツールを上手に使ったというより、最終作品としての勝負、込められたメッセージの深さを感じました。第一回目でこれが出てきたことに驚いています。
佐渡島:非常にレベルが高い作品だと思いました。ただ、僕は見る前は「これが最低ラインかな」と期待していた部分もあります。今はプロもアマチュアも「よーいドン」でスタートした段階。ネット上でスカウトしているような人たちはもう少し高いレベルで作っていたりします。
今のAIクリエイターには2種類いて、「自分の頭の中にある作りたいものをAIに助けてもらう人」と、「ChatGPTから出てきた素材から料理を作る人」がいる。『無名の人』も含め、後者の「家庭料理の最高峰」的な感じはまだ否めません。素材から最高のリミックスを作るクリエイターと、頭の中のビジョンを実現するクリエイター、両方がせめぎ合う時代の幕開けを感じました。
オースミ:私は『無名の人』を見て素直に驚いてしまいました。アニメーションの授業で学生に見せたら、今までの文脈がガラッと変わるほどの衝撃でした。キャラクターに既視感があるのが惜しいですが、物語としての作家性を強く感じました。
中島:『50年後』はクレイアニメ風の質感など粘り強く作っている点が評価できます。『Gravity』はプロっぽいし、音楽もちゃんとしている。3Dで作ったのか実写なのか、労力がかかっている点を評価しました。
佐渡島:『50年後』はやりたい世界観があるのは伝わりましたが、もっと動かせるはず。『Gravity』はAIミュージックビデオとしてはレベルが高い。『100万のいいね』はストーリーは凝っていますが、キャラクターの演技への演出意図、いわゆる「演技監督」としてのダメ出しが足りないと感じました。
市川:意見が割れていますが、投票してみましょうか。『無名の人』か『Gravity』か。
(審査員投票の結果、2対2に割れる)
市川:割れましたね…(笑)。最終的にはどうしましょう。
中島:(市川さん)決めてよ(笑)。
市川:ええっ!? では、ストーリーの見やすさと作家性という点で…ビジュアル部門の受賞作は『無名の人』とさせていただきます! おめでとうございます。
無名の人
影ばかり撮る無名の青年の一夜を通じて、「なんとなく惹かれてしまうもの」とAIとの距離感を重ねて描いた映像作品。
アニメーション部門 審査・発表
市川:続いて「アニメーション部門」です。ノミネート作品は『1クリックの向こう側』、『おじさんたちへのAIのすすめ(おばさんも可)』、『追跡』、『うちらのスタートアップ』です。
佐渡島:どれも面白いですが、アニメーション部門には「力尽きている」作品が集まりがちだったのが少し悲しいですね(笑)。『ワンクリックの向こう側』は頭一つ抜けているかなと思います。
ただ、クレイアニメのように、作るだけで精一杯で動かすところまで手が回らない、という現象はAI以前からあることです。AIによって少人数で制作できるようになれば、そこが変わってくるはずです。
オースミ:やっぱり『ワンクリックの向こう側』ですね。キャラクターデザインも物語もまとまっています。音響などは惜しいですが、作品としてのまとまりとクオリティが高いです。
白井:『追跡』の煙のエフェクトの頑張りとか、ポストエフェクト会社が不要になるレベルですごいなと思いました。『うちらのスタートアップ』も表情劇を頑張っていましたね。ただ、静止画1枚の統一感と美しさで選ぶなら『ワンクリック』かな、と思って見ていました。
中島:僕から見るとみんなレベルが高くてすごいのですが、『うちらのスタートアップ』は物語的に好きでした。実際のスタートアップのリアルな苦労話として(笑)。『ワンクリック』は、賞金をもらったらぜひ続きを作ってほしいし、声を声優に変えるだけでもっと良くなる伸び代があります。
市川:皆さんの意見を聞く限り、ここは満場一致に近いですね。
アニメーション部門の受賞作は『ワンクリックの向こう側』です。おめでとうございます!
プロモーション部門 審査・発表
市川:続いて「プロモーション部門」です。ノミネートは『ハルとおじいさんの物語-3部作紹介』、『What I Learned After Leaving My Job and Studying IT in Australia』、『W Pepper Melon』、『最後の抱っこ』です。
オースミ:プロモーション部門、選ぶのが難しいですね。『W Pepper Melon』は、そもそも何の商品かよく分からないものを伝えようとしている(笑)。でも、ホラーの文脈で音響を使いながら不気味にしていく演出が、AIを超えて映像として面白かったです。
佐渡島:『W Pepper Melon』はレベルが高いですね。しっかり演出意図がある。「何のプロモーションなの?(笑)」という疑問はありつつ、謎の商品を記憶に残させた時点で勝ちかなと。
中島:僕も『W Pepper Melon』はどういうプロンプトで出したんだろうと、テクニカルな部分で高く評価しました。2番目、3番目の作品も論理的には良いのですが、「プロモーション部門」として際立っていたのはこれですね。
白井:海外からの投稿が多かった部門ですが、『W Pepper Melon』は圧倒的でしたね。演出の塊だけで「本質は商品です」とする表現は、作り方が分かっている人だなと。
市川:こちらも決まりそうですね。プロモーション部門の受賞作は『W Pepper Melon』です。おめでとうございます!
ドキュメンタリー部門 審査・発表
市川:最後に「ドキュメンタリー部門」です。ノミネートは『AUTHENTIC ZERO』、『冷光 - 2040年の恋 -』、『あなたは次に、何を育みますか?』、『ある男の一生』です。
白井:どれも良いですね。『ある男の一生』はMulmoCast紙芝居のカテゴリーとしては王道で、丁寧に作られています。『AUTHENTIC ZERO』はデザインやUIが現代的で、ストーリーも後半ホラー展開で面白い。僕は『AUTHENTIC ZERO』と『冷光』が推しです。
中島:開発者としては『ある男の一生』が「MulmoCast使い方優秀賞」なのですが(笑)、作品としては『冷光』が良いなと思いました。他のツールから映像を引っ張ってきている悔しさはありつつも、恋愛ものが好きという個人的な好みも含めて。
佐渡島:『AUTHENTIC ZERO』と『冷光』の方が、作りたい人の思いやこだわりが見えやすかったです。ただ、「AIで作ったドキュメンタリーとは何か?」という問いに対して、深くまで掘り下げた作品はまだなかったかなと。
オースミ:ドキュメンタリー部門で選ぶのはハードルが高いですね。『AUTHENTIC ZERO』や『冷光』は、AIを使った先の未来、人間が感情まで乗っ取られる恐怖などを描いていて、物語としての面白さを感じました。ただ、これがドキュメンタリーかと言われると難しい。SFと捉えたら面白かったです。
佐渡島:AIを使いこなして新しい表現に挑戦している量という意味では、:『AUTHENTIC ZERO』が一番かなと思います。
市川:意見が分かれていますが、中島さんが『冷光』に入れるとすると…?
中島:僕が『霊魂』に入れると2対1とかになりますね。でも、『冷光』への評価も高いので…。
市川:最終的に多数決的な流れでいくと…ドキュメンタリー部門の受賞作は『AUTHENTIC ZERO』とさせていただきます。おめでとうございます!
グランプリ決定・最終審査
市川:それではいよいよグランプリの発表です。各部門賞を受賞した以下の4作品から選出します。
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ビジュアル部門:『無名の人』 柿原飛翔
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アニメーション部門:『1クリックの向こう側』カワベシンクン
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プロモーション部門:『W Pepper Melon』ungr18
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ドキュメンタリー部門:『AUTHENTIC ZERO』keythpiece
この中から、賞金50万円にふさわしい「自腹で50万払うなら誰に入れるか」という観点で議論をお願いします。
オースミ:私は『無名の人』がいいですね。作家性を一番感じます。AIをテーマにせずに、作りたいものをAIの力を借りて形にしている。その「作り切った」強さを感じます。
佐渡島:僕も、今後「担当編集としてつきたいか」「誰が伸びそうか」という視点で見ると、『無名の人』と『ワンクリックの向こう側』です。特に『無名の人』は、表現したい感情が継続してありそう。相談が来たら乗れそうだなと思います。
中島:他の3つは「コンテストがあるから作った」感じがしますが、『無名の人』は「もともと言いたいことがあって、たまたまコンテストという場を使った」という、一歩深い動機を感じました。
白井:責任重大ですが、僕も『無名の人』ですね。『ワンクリック』も可愛いですが、綺麗・可愛いだけで終わらせず、音楽や音効、声優、セリフなど言語ありきのところから作り直す努力が必要。その点、『無名の人』は写真家としての構図や、内面にある「どす黒いもの」を含め、作り続ける根性や作家の魂を感じます。この人が有名になる瞬間に立ち会ったのかな、と思います。
市川:満場一致のようですね。
それでは発表します。AIショートフィルムフェス2025、栄えあるグランプリは……『無名の人』です! おめでとうございます!!
審査員総評・エンディング
市川:最後に審査員の皆様から一言ずつお願いします。
オースミ:最後の4作品はどれもクオリティが高く、AIがここまで来ているのかと驚きました。今回は「AI」や「自分ヒストリー」をテーマにした作品が多かったですが、来年はそうではないテーマ、例えば『無名の人』のように心に残る作品がもっと出てくるといいなと思います。今の時代が見える良いコンテストでした。
佐渡島:漫画や映画でも、業界の人が興味を持つことばかり描かれがちですが、世の中の森羅万象はもっと面白いんです。『はたらく細胞』のように、自分が最も詳しい専門分野をAIで見せる方が輝くはずです。今回参加した皆さんはすでにアドバンテージを持っています。副業から職業が始まる時代ですので、ぜひ挑戦を続けてください。
白井:今日ファイナリストに残った人たちは「プロっぽい」とおもうかもしれませんが、このツールやコンテストに参加された方の"思い"が今後に続くことが尊いです。個人的な「どす黒い経験」や理不尽な思いこそが創作のネタになります。僕も「死んでやる!」と思った時に書いたプロンプトが最高だったりしました(笑)。AIがそれを形にしてくれます。今日で終わりにせず、ぜひ作り続けてください。そして一緒にプロデュースさせてください。
中島:MulmoCastを作った時から感じていますが、AIのおかげで制作コストや時間が桁違いに下がりました。これは単に「AIが仕事を奪う」という話ではなく、教育現場でAIが一人ひとりの生徒に寄り添えるようになるのと同じく、クリエイティブでも「自分だけが聴く曲を作る」「特定の誰かのためだけにビデオを作る」といった、今まで存在しなかったエンターテインメントが可能になるということです。コストが下がったからこそできる、想像もしなかった使い方を楽しんでほしいと思います。
市川:審査員の皆様、そしてご視聴・ご応募いただいた皆様、本当にありがとうございました。
以上をもちまして、AIショートフィルムフェス2025 結果発表特番を終了させていただきます。ありがとうございました。
AICU mediaとしてのお知らせ
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Originally published at note.com/aicu on Dec 14, 2025.

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