2026年7月21日、米国ロサンゼルスで開催されたSIGGRAPH 2026の名物プログラム「Real-Time Live!」が、ロサンゼルス・コンベンションセンターのHall Kで開催されました。
Real-Time Live!は、コンピュータグラフィックスやインタラクティブ技術を、完成済みの映像ではなく実機で動かし、その場で観客に見せるライブデモの祭典です。公式の発表規定でも、審査を経た技術をリアルタイムで提示し、事前収録映像やスライドに頼らないことが求められています。今年は生成AI、レンダリング、シミュレーション、ロボティクス、教育まで、方向性の異なる8作品が選出されました。
司会を務めたReal-Time Live! ChairのMk Haley氏は、今年のテーマとして、スクリーンの中だけでなく、現実世界へ飛び出すリアルタイム技術を強調しました。会場では観客が声を上げ、スマートフォンから画像を投稿し、最後には会場とYouTube視聴者がAudience Choice Awardへ投票します。失敗の可能性ごと舞台に乗せることが、このイベントの醍醐味です。
1.Promptable AI Camera
最初の「Promptable AI Camera」は、ベルギーのAP University of Applied Sciences and Arts Antwerpによる、自然言語で映像を編集できるリアルタイムカメラです。
登壇者が「ジュラ紀のジャングルにして」「シャツを赤く」「サングラスを消して」と指示すると、カメラ映像の背景や人物の一部が次々に変化しました。さらに人物は漫画調、背景はカラフルなシュルレアリスム、ひげだけ紫色というように、領域ごとに異なるスタイルを重ねています。
処理はベルギー側のサーバーで行われていたため多少の遅延はありましたが、ライブ映像の構図や人物の動きを保ったまま、見た目だけを書き換える様子は十分に「カメラ」の概念を揺さぶるものでした。
撮影してから編集するのではなく、撮影中の現実をAIが解釈し、演出する。ライブ配信、バーチャルプロダクション、イベント演出に直結する提案です。
2.ZibraGDS: Cinematic-Quality Animated Geometry Compression and Real-Time Playback
Zibra AIの「ZibraGDS」は、映画品質の巨大なアニメーションジオメトリを圧縮し、ゲームエンジン上でリアルタイム再生する技術です。
炎、破壊、瓦礫、植生、衝突、水流といったVFXでは、毎フレーム形状が変わります。高品質なシミュレーション結果をHoudiniなどからUnreal Engineへ持ち込もうとすると、データ量と再生負荷が壁になります。
ZibraGDSは、位置、法線、色、UV、速度など複数の属性をGPU向けに圧縮し、必要な部分だけを展開して描画します。メッシュを小さな単位に分割して、視界に入らない部分の属性を展開しないことで、高密度な形状を効率よく扱います。
ステージでは、数千万三角形規模の破壊表現や、植物が外力で変形するシミュレーション、車両衝突、数百万三角形の滝がリアルタイムで再生されました。発表では、Alembicキャッシュと比較して80〜92%のデータ削減、既存手法より5〜10倍高速な描画などが紹介されています。
重要なのは単なる容量削減ではありません。オフラインで制作した映画品質の表現を、インタラクティブに確認し、照明やカメラをその場で変更できることです。映画とゲームの制作パイプラインの境界が、また一段薄くなりました。
3.HiPR: Hierarchical Progressive Rendering for Immediate Feedback
University of Utahの「HiPR」は、シーン全体を毎回描き直すのではなく、変更された物体と、その変更によって光の影響を受ける部分を優先して再レンダリングする手法です。
デモは100万個のCornell Boxが並ぶ光景から始まりました。さらに、鏡面、金属、透過、発光などの材質を変更すると、その物体から周囲へ光の変化が段階的に伝播します。変更箇所を起点に、すでに計算された光輸送の関係をたどり、次に描画すべき物体を決める仕組みです。
後半では「Camouflage That Chameleon!」という観客参加型デモを実施しました。観客の声量に合わせてカメレオンの色が壁や家具へ近づき、その反射や間接光もリアルタイムに更新されます。
AIを使わず、レンダリングアルゴリズムそのもので待ち時間を削る。この研究は、ルック開発、バーチャルプロダクション、ゲーム、フォービエイテッドレンダリングなど、変更と確認を繰り返す制作現場に効いてきます。
4.Game-Ready Hair in Minutes! Hair Mesh Modeling with Physics
デジタルヘアは、美しい静止画を作れても、ゲームで軽く動かし続けるのが難しい領域です。
「Game-Ready Hair in Minutes!」は、毛束一本ずつを直接編集するのではなく、髪全体の体積を表す低解像度の「Hair Mesh」を編集し、その内部に毛髪を生成するワークフローを提案しました。
Hair Meshはポリゴンモデルのように押し出し、長さ、ボリューム、毛先の角度を調整できます。その背後では物理シミュレーションが動き続け、パラメータを変更しても髪型全体の形が崩れないよう補正します。
舞台には、3Dモデリング経験のない14歳のMayar Youksellさんが登場しました。数時間だけ練習したというツールを使い、Hair Meshを短時間で作成。ストレートヘアをカールの強いスタイルへ変更し、毛量、クランプ、カール、伸縮性、減衰などを触りながら、ゲーム内で動く髪へ仕上げていきました。
関連技術では10万本の毛髪を1ミリ秒未満でラスタライズでき、100体のキャラクターを並べても効率を維持できると説明されました。
論文として発表された技術が、子どもでも操作できる制作ツールへ変わる。その研究から実用化までの連鎖も、SIGGRAPHらしい見どころでした。
5.Runway Characters: Real-Time Expressive AI Characters from a Single Image
Runwayの「Runway Characters」は、一枚の画像から、会話し、表情を変え、口を動かすリアルタイムキャラクターを生成するビデオエージェントです。
追加学習なしで、写実的な人物から動物、アニメ調のマスコットまで扱い、HD解像度、24fpsで動作します。基盤にはRunwayのGeneral World Model「GWM-1」が使われています。
ステージでは、SIGGRAPH 2027 Real-Time Live! ChairのNathan Matsuda氏をその場で撮影し、約15秒で本人そっくりの対話キャラクターを作成しました。本人が自分のAIキャラクターと会話するという、鏡が少し未来へずれたような光景です。
続いて、一枚の猫画像から作られた「Pix」が登場し、自らシステムの仕組みを説明しました。音声エージェントが返答を生成し、その音声をaudio-to-videoモデルへ渡して、映像をフレーム単位で生成します。
発表では1フレーム約37ミリ秒で処理し、Diffusion TransformerとVAEデコーダーを並列実行することで遅延を抑えていると説明されました。
「画像を作るAI」から「画像の人物と話すAI」へ。キャラクター制作、ゲーム内NPC、教育、接客、配信者支援の境界が急速に接近しています。
6.Create Interactive 3D Assets in Seconds!
Best in Showを受賞した「Create Interactive 3D Assets in Seconds!」は、画像やテキストから、テクスチャ、リグ、アニメーションを備えた3Dアセットを数秒で生成し、その場でゲームへ投入するシステムです。VASTの研究チームと3D生成AI「Tripo」による発表です。
デモでは、まず「SIGGRAPH 2026」と刻まれた宝箱を約2,000ポリゴンで生成しました。続いて複雑なキャラクターを約2万ポリゴンへ整理し、形状の特徴を保ったゲーム向けモデルにしています。
単に高密度な3D形状を吐き出すのではなく、用途に応じてポリゴン数を指定し、パーツ分割やリギングまで行える点が重要です。
さらに観客がQRコードから画像を投稿し、短時間で数百個の3Dアイテムを生成しました。配送ロボット風の車、Utah Teapotを車にした「Teapot Car」、カニ、槍、そして妙に人気を集めたジャガイモまで、生成されたオブジェクトが共有のレースゲームへ次々に投入されます。
発表者は「6分前には箱しかなかった」と振り返りました。生成、最適化、リグ、アニメーション、ゲーム統合までを一つのライブ体験に接続したことが、審査員から高く評価されたのでしょう。
生成AIがアセット制作を速くするだけでなく、観客全員を即席の共同制作者へ変えた作品でした。
7.Dissectible Anatomy: Embodied Exploration for Education
Purdue Universityの「Dissectible Anatomy」は、人体や動物の3Dモデルを、リアルタイムで切る、裂く、開く、取り出すことができる解剖教育システムです。
基になったのは、米国国立衛生研究所によるVisible Human Projectで作られたカラー凍結切片画像です。献体を凍結し、1ミリずつ削りながら撮影した断面データを、3Dテクスチャとして利用します。
モデル内部は多数の粒子とshape constraintで構成され、その間に変形可能なスプラットを埋め込みます。切断時には、切り口の左右で影響するconstraintの重みを更新することで、両側を独立して動かせるようにします。
切開部を開くretraction、途中まで裂くtearing、臓器などを取り出すexcisionにも対応しました。解剖構造のセグメンテーションデータがある場合は、臓器名の表示や、特定の構造だけを取り出すこともできます。
会場では人体だけでなく犬やアルマジロも容赦なく切られ、登壇者は解剖学にちなむ駄洒落を連射しました。技術の高度さと、観客が一目で機能を理解できる舞台演出が見事に噛み合い、会場とオンライン視聴者の投票によるAudience Choice Awardを獲得しました。
実際の解剖実習を置き換えるのではなく、学生が事前練習や復習を安全に行える。古い科学データを、リアルタイムシミュレーションによって新しい学習体験へ再生した作品です。
8.Olaf: Bringing an Animated Character to Life in the Physical World
Disney Researchの「Olaf」は、『アナと雪の女王』のキャラクターを、見た目だけでなく動きや性格まで含めて物理世界へ持ち出すロボティクス研究です。
オラフは巨大な頭、細い首、小さな雪玉の足を持ち、アニメーションでは現実のロボットに不向きな動きをします。
研究チームは、柔らかいフォーム製のスカート内部に左右非対称の脚を隠し、足が胴体の下を自由に動いているように見せました。腕、口、目には限られた内部空間へ収めるため、球面・平面リンク機構が使われています。
動作制御には、アニメーションの参照動作を模倣する強化学習を採用しました。ただし、見た目どおり歩くだけではキャラクターになりません。
硬い足音は生命感を壊し、細い首に収めたアクチュエーターは大きな頭を動かすことで過熱します。そこで研究チームは、足の衝撃音を抑える報酬と、温度を入力として過熱を避ける報酬を学習へ加えました。
これは「歩けるロボット」を作る研究ではなく、「オラフらしく存在できるロボット」を作る研究です。物理AIの評価軸が、安定性や効率だけでなく、キャラクターの説得力へ広がっていることを示しました。
なお、公開配信の文字起こしにはこの演目部分が含まれていないため、本節はSIGGRAPH公式プログラムとDisney Researchの公開情報を基に紹介しています。
Best in ShowとAudience Choice Award
審査員が選ぶBest in Showは、「Create Interactive 3D Assets in Seconds!」が受賞しました。
数分の間に3Dアセットを生成し、観客の投稿を取り込み、実際に遊べるレースゲームへ統合した一連の流れは、生成AI、リアルタイム3D、インタラクション、ライブ演出を一つに束ねています。
観客投票によるAudience Choice Awardは、「Dissectible Anatomy: Embodied Exploration for Education」が受賞しました。
切る、裂く、開くという操作のわかりやすさと、科学データ、教育目的、安定したリアルタイム変形が、専門家以外にも強く届いた結果でしょう。
2026年のReal-Time Live!が示したもの
8作品を並べると、今年の主役は生成AIだけではありません。
Promptable AI CameraとRunway Charactersは、映像を生成するAIをライブ出演者へ近づけました。Create Interactive 3D Assets in Seconds!は、生成AIをゲーム制作と観客参加へ接続しました。
一方、ZibraGDS、HiPR、Hair Meshは、データ圧縮、光輸送、物理シミュレーションという骨太なCG研究で、制作者の待ち時間を削っています。
Dissectible Anatomyは科学データを身体的な学習体験へ変え、Olafはキャラクターをスクリーンから現実へ連れ出しました。
共通しているのは、計算結果を速く表示するだけではなく、人がその場で触り、話し、叫び、作り、意味のある反応を返してもらうことです。
リアルタイム技術は、映画品質をゲームへ運び、静止画を会話相手へ変え、観客のスマートフォンを3D制作端末にし、アニメーションの人格をロボットへ宿します。
Real-Time Live!の感嘆符は、今年も飾りではありませんでした。
https://note.com/aicu/n/nb099bd1ee71b
AICU Media Thanks to all demo players and streaming staff.
https://corp.aicu.ai/ja/tag/siggraph
Originally published at note.com/aicu on Jul 28, 2026.

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