元Apple伝説のデザイナーがOpenAIにジョイン! Sam & Jony が考える「人間の可能性解放装置」

Sam & Jony introduce io with Baskerville types

2025年5月21日、OpenAIはAppleの元デザイナーであるジョニー・アイブ氏(Jony Ive)が設立したAIハードウェア企業「io」を買収し、AIハードウェア分野への参入を強化を発表しました。

OpenAIは、iPhoneやiPodなどのデザインで知られるジョニー・アイブ氏が共同で立ち上げたAIハードウェア企業「io」を65億ドル(約9300億円)で買収すると発表しました。ioの約55名のハードウェアエンジニア、ソフトウェア開発者、製造専門家がOpenAIに加わることになります。この発表は、単なる買収劇ではありません。“使う喜び”を中心に据えたAIのプロダクト哲学が、真に社会実装される第一歩かもしれません。深く掘り下げてみます。

ジョニー・アイブ氏について

ジョニー・アイブ(Sir Jonathan Paul Ive, 1967年2月27日生)は、イギリス系アメリカ人のデザイナーです。彼はApple社での工業デザイン担当上級副社長兼最高デザイン責任者として、フェラーリ、Airbnb、OpenAIなどのグローバルブランドと協力するクリエイティブ集団、LoveFromの創設者です。2017年からロンドンの王立芸術院の総長を務めています。アイブ氏は1992年9月にアップルに入社し、共同創業者のスティーブ・ジョブズの復帰後、1990年代後半にインダストリアルデザイン担当上級副社長に昇進し、2015年から2019年7月に退任するまで最高デザイン責任者を務めています。ジョブズ氏と緊密に連携しながら、Apple Watch、iMac、Power Mac G4 Cube、iPod、iPhone、iPad、MacBook …そしてアップルのiOSのユーザーインターフェースなど、製品のデザインに重要な役割を果たしました。また、アップルパークやアップルストアなどの主要な建築プロジェクトの設計も担当しています。

ニューヨーク近代美術館(MoMa)に収録されたアイブ氏の作品

https://www.moma.org/artists/25843-jonathan-ive

ジョニー・アイブ氏の役割とデバイスの展望
ジョニー・アイブ氏はOpenAIに直接参加するわけではありませんが、同氏のデザイン企業であるLoveFromがOpenAIの全デザイン業務(ソフトウェアを含む)を引き継ぐと報じられています。アイブ氏とOpenAIのサム・アルトマンCEOは、「世界がこれまでに見た中で最もクールなテクノロジー」と称するAIハードウェアの開発を進めており、すでにプロトタイプが動いていることが明かされています。アルトマン氏は、このデバイスが同社にとって「これまで成し遂げた中で最大のことをするチャンス」であり、OpenAIに1兆ドルの価値をもたらす可能性があると述べています。

https://www.lovefrom.com/

ちなみにこのフォントも「LoveFrom Serif」というオリジナルフォントです。

LoveFrom Serifの誕生秘話

LoveFrom Serifは既存の「バスカヴィル(Baskerville)」フォントのパンチ、印刷された書籍、現代の書道家のマニュアルを研究し、オリジナルを大幅に拡張したものです。バスカヴィルは、1750年代にイギリスのバーミンガムでジョン・バスカヴィル(1706-1775)がデザインした書体です。分類は「セリフ体」。日本語フォントの「明朝体」にあたるクラシックな面影があるフォントです。サンフランシスコ公共図書館(SFPL)らとの協力で、歴史的意義とデザイン、歴史的意義、その新しい解釈のデザインについて、講演で概説されました。この講演は、ジョニー・アイブ氏が率いるLoveFromが、単なるプロダクトデザインだけでなく、書体デザインといったより広範なクリエイティブ領域で、単なるアイデンティティだけでなく、フォントが「声」や「ツール」として機能するという、デザインがコミュニケーションや創造性において果たす役割を重視する彼らの哲学を表していると言えるでしょう。

Stripeカンファレンスでの講演から

ジョニー氏に注目しているのはOpenAIだけではありません。先日開催された決済サービス「Stripe」のカンファレンスで、Stripe CEO, Patrick Collison氏によって

Patrick 「以前、あなたは私に『心から人類を高める (sincerely elevate the species)』という言葉を使いましたね。」
John「ええ、私は何度も。覚えています。幸いなことに過去形では話していません。特に日曜の午後に、包装の細部にまでこだわって作業していた時のことを覚えています。これは非常に些細なことですが、例えば、箱の中のケーブルの管理方法について特定の解決策を設計することによって、何百万人もの人々がこの小さなタブに触れることになるということをはっきりと認識していました。そして、私はケーブルを簡単に解けるようにすることもできました。これは非常に些細な例です。でも、明らかにそれが、数秒の節約につながると考えているわけですよね。数億個のケーブルを巻く時間を5秒短縮すると。この些細な実用的な、掛け算や計算だけではない。あなたにとってそこに何か精神的なものがあると。その精神的なものとは何か?」

「精神的なものとは、箱を開けてケーブルを取り出した人が、『誰かが私を気にかけてくれた』と感じたとき、それは精神的なものだと私は信じています。私はかつて、機能的な必須事項を解決したら終わりだという感覚に落ち込んでいました。しかし、それでは十分ではありません。それは、進化した社会、進化した種の特質ではありません。だから、日曜の午後に、本当は子供たちと出かけるべきだったのに、このことを気に病んでいるとき、私は、まだ存在することさえ知らない何かを誰かが経験するだろうという、つながりと興奮を感じました。そして、それは小さなことだったにもかかわらず、心からの愛と気遣いから生まれたものでした。スティーブもこのことについて話していました。彼は私よりもはるかに雄弁に語っていました。彼は「愛と気遣いをもって何かを作る」、そうすると、それが誰のためか知らなくても、彼らの物語もあなたの物語も知らなくても、決して握手することさえなくても、彼らが作った製品を使うとき、それは、スティーブが表現したように「人類への感謝の表現を感じるのだ」と話していました。私はそれが信じられないほど思慮深く、美しく、本物を語るものだと思いました。」

A conversation with Jony Ive

変化した、OpenAIのデザイン。

OpenAIのWebサイトでの発表も一変。ヒューマニズムをドキュメンタリーで訴えるシックなデザインに。

今回のOpenAIプレスリリースも従来のOpenAIの雰囲気とは大きく異なり、LoveFromのサイトに近いBaskerville風のフォントが使われています。

https://openai.com/sam-and-jony/

非常に高い技術で実装されたフォントの名前は
・OpenAISans-Regular.woff2
・OpenAISans-Medium.woff2
でした。「フォントからコミュニケーションを変えていこう」という戦略が感じられます。

ちなみにこの調査において分かったことですが、現在のOpenAIのWebサイトでファイルなどが見つからない404エラーを出すと…。[by o4-mini-high]というリンク付きで動的な格言が出るようになりました。

「愛あるコラボ」が生んだ“次のApple”のような挑戦、とは

OpenAI公式ブログ「Sam & Jony introduce io」で公開されている特別な動画は、サンフランシスコ市街のアイコニックなカフェ「Zoetrope」で撮影されたものです。超有名人であるはずの二人が街を歩き、カフェで出会うというサンフランシスコという地元への愛情を表現するところからヒューマニティを表現しています。

https://openai.com/sam-and-jony/

Appleでの30年を経て“すべての経験がこの瞬間に繋がった”と語るジョニー・アイブ氏、そして「誰にもできない領域にJonyのチームは踏み込んでいる」と評するサム・アルトマンCEOの言葉が綴られています。

“AIは驚異的な技術だが、それを人間にとって「良い道具」にするには、テクノロジー、デザイン、そして人間理解の交差点での仕事が必要だ”
— Sam Altman

“これまでの30年間で学んだすべてが、この瞬間のためだったと感じている”
— Jony Ive

2年前、ジョンと私はAIと新しい種類のコンピューターの未来がどうなるのか、そしてどのようなものになるのかについて話し始めました。私はOpenAIを運営していました。ジョニーはLoveFromというデザイン会社を運営していました。LoveFromは、私が今まで聞いたことのある、そしておそらく世界でも類を見ないほど才能が凝縮された会社として、確固たる地位を築いていました。そして、私たち二人にとって、3つ目の会社が必要だということがすぐに明らかになりました。1年前、私はスコット・キャノン、エバンス・ハンキー、タン・タンと共にio を設立しました。彼らは非常に優秀なエンジニアです。彼らは、ハードウェアとソフトウェアのエンジニアリング、物理学者、研究者、そして製品製造の専門家など、幅広い分野の専門家からなるチームを築き上げました。そして、io はOpenAIと合併するのです。 AIを使って様々な素晴らしいものを作ることができるデバイスファミリーをどうやって作るか、という使命を掲げて設立されました。私たちが最初に取り組んできたデバイスは…まさに私たちの想像力を完全に捉えたものでした。

ioとは何か?AppleのDNAを継ぐAIハード集団

Jony Ive氏がScott Cannon氏、Evans Hankey氏(元Apple VP of Industrial Design)、Tang Tan氏(元Apple VP of Product Design)らと設立したio社は、テクノロジーと人間性の融合を目指すAIハードウェア開発集団。過去2年間、秘密裏にOpenAIと共同で構想を練り、“楽観的で、人を笑顔にするような”プロトタイプを構築してきました。これらは単なるガジェットではなく、人間の創造力と学習を支援する新しい装置なのかもしれません。

ある日、ジョニーから電話があって、「これは私たちのチームがこれまでに手がけた中で最高の作品だ」と言われました。「ええ」だって、ジョニーはiPhoneもMacBook Proも作ったんですから。これらは人々がテクノロジーを使う決定的な方法なんです。これらに勝るものはありません。本当に素晴らしいものです。ジョニーは最近、このデバイスのプロトタイプを初めて家に持ち帰らせてくれました。そして、私は…これに慣れてきました。そして、これは世界がこれまでに見た中で最もクールなテクノロジーだと思います。私たちが想像を絶するテクノロジーを提供し、それを私たちに届けるために使っている製品は、何十年も前のものです。ええ。ですから、少なくとも、これらのレガシー製品を超える何かがあるはずだと考えるのは当然のことです。

AImagine by AICU

クラウドには、いわば魔法のようなインテリジェンスがあります。
もし私が質問をしたいと思ったら、
先ほど話した内容について、今すぐChatGPTに質問するでしょう。
何が起こるか想像してみてください。
手を伸ばしてノートパソコンを取り出し、それを開いてウェブブラウザを起動し、入力を始めて、その内容を説明し、Enterキーを押して待つと、返事が返ってくるでしょう。
そして、それが現在のノートパソコンの限界です。
しかし、このテクノロジーにはもっと優れたものが必要だと私は考えています。

では、どのように始まったのでしょうか?息子のチャーリーが、家族の中で初めてChatGPTを使いました。彼は「サムに会ってみろ」と言いました。ジョニーに出会ってから、私は比較的すぐにジョニーの家族と知り合いました。彼らは本当に、本当に素敵な家族でした。新しい人と本当に繋がれるなんて、なんて光栄なことだろう、と。こんな経験は久しぶりでした。それが実現できたのは、二人に強い共通のビジョンがあったからだと思います。どこへ向かうのか、正確には分からなかったかもしれませんが、力のベクトルの方向ははっきりとしていました。

そして、テクノロジーはどうあるべきか、テクノロジーが本当にうまくいった時、うまくいかなかった時について、深く共有された価値観がありました。つまり、ある意味で、それがサムと私が意気投合した理由の一つだったと思います。これまでそれぞれ素晴らしい道のりを歩んできたにもかかわらず、私たちのモチベーションと価値観は全く同じだったのです。私の経験から言うと、最終的にどこにたどり着くのかを意識できる空間を作ろうとするなら、テクノロジーに目を向けるべきではありません。意思決定をしている人々に目を向けるべきです。そして、何が私たちを突き動かし、動機づけ、そして価値観に目を向けるべきです。

サンフランシスコへの愛

今回のリリースは2年にもわたるSamとJonyの「新デバイス開発秘話」という位置付けのはずですが、興味深いのは「サンフランシスコへの愛」です。

サンフランシスコは、アメリカの歴史、そしてある意味では世界史においても、いわば神話的な場所でした。
私にとってサンフランシスコは、文化とテクノロジーの最先端を最も強く連想させる街です。
この街は、多くのものを生み出し、創造の場となってきました。
これらすべてがベイエリアで起こり、私たちが住むこの巨大な地球上の他の場所では起こらなかったという事実は、決して偶然ではないと思います。
地理的に奇妙で風変わりな点が数多くあり、それが街の構造に関係していると私は考えています。
例えば、あの不条理な丘陵地帯、なぜこれほど多くのエネルギーを注ぎ込むことを選んだのか、その理由が分かります。

ジョニー・アイブは先述のフォントと公共図書館の例にもあるように、デザインにおけるヒューマニティ、歴史といった文化的背景とコミュニケーションデザインやコンテキストを重視する人物です。
これからのAIビジネスを成功させ、人類を新たなステージに進めていくためには、Webサイトのフォントや動画の置き方、ハードウェアといった基本的なデザインが非常に重要になるという思想を感じます。

例えば同じサンフランシスコで実験されている自動運転車「Waymo」を例に挙げると、わかりやすいです。

「自動運転して、乗客を目的地に連れていく」という機能に対して、利用者や街の人々が「どのような感想を抱くか」という点が、単なる機能や価格による過当競争ではなく、AIの意味や存在を社会に実装させるキーであることを感じさせます。

ioはOpenAIへ完全統合へ、LoveFromが全体デザイン監修

今後、ioのハードウェア・ソフトウェア・製造チームはOpenAI本体と統合され、サンフランシスコのR&Dに加わります。
Jony Ive率いるLoveFrom社は、OpenAIとioのデザイン全体を監修するクリエイティブパートナーとなります。この動きは、OpenAIにとってGPTやWhisperといったソフトウェアの枠を超え、物理世界への出力としての“AIデバイス”戦略を加速させるものです。

AICU的視点:「Apple再来」ではなく、「未来の道具」の始まり

この発表は、単なる買収劇ではありません。“使う喜び”を中心に据えたAIのプロダクト哲学が、真に社会実装される第一歩かもしれません

人間の創造、学習、表現、そして日常の中でのAIとの共生。それはプロンプトだけでは実現できません。
その体験すべてを形にするのが、デザインとハードウェアの仕事です。

過去30年のAppleの代表的なプロダクトやイベント、店舗やウェブサイトを作ってきた伝説のデザイナーが、OpenAIとともに人類を次のステージに自然に引き上げていく挑戦に注目です。

Akihiko Shirai

白井暁彦/しらいはかせ/AICU CEO。東京工業大学 知能システム科学 博士(工学) 。デジタルハリウッド大学大学院客員教授。メタバースR&D開発、VRエンタテインメントシステム、メディアアート研究、写真工学、画像工学、触覚技術、GPU応用、多重化ディスプレイ、体験の物理評価、国際連携を専門に画像生成の研究開発で30年近い経験を持つ博士(工学)。 日本バーチャルリアリティ学会 IVRC実行委員会、フランスLaval Virtual評議員、芸術科学会副会長。Hacker作家。インプレス「窓の杜」にて「生成AIストリーム」連載中。 2018年よりグリーグループ「GREE VR Studio Laboratory」にてREALITYに代表されるメタバースの未来開発を担当。数多くのメタバースにおけるUX知財を生み出してきただけでなく、子供向けワークショップ開発や先端研究を通したイノベーション型人材の育成、VTuber時代のクリエイター・ライブプレイヤーとして世界に向けた発信活動を行っている。 2023年より「つくる人をつくる」をビジョンにデジタルハリウッド大学発 米国スタートアップ企業「AICU Inc.」CEO就任。日米でクリエイティブAIコミュニケーションメディアを開発・発信しているする。 【著書】 「WiiRemoteプログラミング」(オーム社、共著)、「白井博士の未来のゲームデザイン ―エンターテインメントシステムの科学―」(ワークスコーポレーション)、「AIとコラボして神絵師になる 論文から読み解くStable Diffusion」(インプレス)、最新刊「画像生成AI Stable Diffusion スタートガイド」(ソフトバンククリエイティブ) 窓の杜「生成AIストリーム」連載中 https://j.aicu.ai/AIStream 【論文】 「床面提示型触覚エンタテイメントシステムの提案と開発」東京工業大学 第1535076号 平成16年3月26日「エンタテイメントシステム」芸術科学会(2004年) 全リスト https://researchmap.jp/akihiko/published_papers

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