【AICU社説】ChatGPT“ジブリ化”で問われている生成AI時代の著作権

opinion AI copyright wars after Ghiblification

AICU編集長のしらいはかせ(X:@o_ob)です。2025年4月から5月にかけて、フランスとサンフランシスコとロサンゼルスを行き来して、生成AI、特にクリエイティブAIにおける各国の「ネットでは見えない真実」を取材してきました。
ChatGPTとジブリ風スタイル模倣に揺れるアメリカ西海岸の生成AIプレイヤーたちの著作権解釈、そしてそのキーになっている日本への視線と理解、その対話の現場で感じたリアリティをお届けします。

ジブリ風イラストが「フェアユース」の境界線をあぶり出す

日本時間の2025年3月26日、OpenAIはChatGPTの基盤モデル「GPT-4o」に、画像生成機能をリリースしました。
Xでは「ジブリ風AIアバター」ミームが大流行。ChatGPT-4oの画像生成機能とともに、誰もが“スタジオジブリ”の世界観を再現できる時代が来てしまったのです。
オープンAIのサム・アルトマンCEOも、最初は乗り気ではなかったようですが、翌日3月27日にSNSのXの、みずからのプロフィール写真を「ジブリ風」だとする画像に変えました。

>be me
>grind for a decade trying to help make superintelligence to cure cancer or whatever
>mostly no one cares for first 7.5 years, then for 2.5 years everyone hates you for everything
>wake up one day to hundreds of messages: "look i made you into a twink ghibli style haha"

— Sam Altman (@sama) March 26, 2025

>be me
>grind for a decade trying to help make superintelligence to cure cancer or whatever
>mostly no one cares for first 7.5 years, then for 2.5 years everyone hates you for everything
>wake up one day to hundreds of messages: "look i made you into a twink ghibli style haha"

超知能を作ってガンとか治そうと10年間がんばる
最初の7年半はほとんど誰にも相手にされず、残りの2年半は何をしてもみんなから嫌われる
ある朝目を覚ましたら、何百件ものメッセージが届いてる:「君をジブリ風の美少年にしてみたよ、ハハ」

これは典型的な「>be me」形式のネットミーム調の文体(いわゆる“グリーンテキスト”)で、真面目な研究者人生と、それが突然ネットでジブリ風のミームにされる現象とのギャップを皮肉と笑いで表現しています。文脈上、これはMark Chen氏のような人物が自虐的に語るユーモアです。
そのツイートに対する、Stability AIの元共同創業者であるエマド・モスタク氏のリプライの皮肉が効いています。

My timeline is AGI

All
Ghibli
Images

— Emad (@EMostaque) March 26, 2025

My timeline is AGI
All
Ghibli
Images

僕のタイムラインはAGIだよ:
All(全部)
Ghibli(ジブリ風)
Images(画像)

「ジブリ化」の経済効果

OpenAIでジブリ化を開発した人物を見つけたので引用しておきます。

I'm Mark Chen (@markchen90), Chief Research Officer at OpenAI and I've uploaded my profile picture. Generate an image of a Tweet about the launch of GPT-4o native image generation - include a Studio Ghibli-style generation in the post. pic.twitter.com/IjhcSxYKik

— Mark Chen (@markchen90) March 27, 2025

 私はMark Chen(@markchen90)、OpenAIのチーフリサーチオフィサー(CRO)です。プロフィール画像をアップロードしました。 GPT-4oのネイティブ画像生成のローンチに関するツイートの画像を生成してください――スタジオジブリ風の生成例を投稿に含めてください。

この投稿は、OpenAI公式の研究責任者が「ジブリ風の画像生成」をGPT-4oのPRの一部として認め、促進していることのエビデンスと捉えることができます。
・スタイル模倣がOpenAI公式アカウント・研究責任者レベルで言及されている
・使用されているのは「ジブリ風(Ghibli-style)」という明確な語句
・それを「デモ用途」として活用する意図がある
このことは、ジブリ風画像生成が単なる個人利用に留まらず、商業・プロモーション用途にも波及し始めていることを示しています。著作権・依拠性・スタイル模倣に関する議論の文脈において、非常に示唆的な資料です。
なお、この3月末には宮崎駿監督の名作『もののけ姫』が、米国のIMAXシアターで4Kリマスター版として再上映され、推定400万ドルの興行収入を記録しています。

https://hotakasugi-jp.com/2025/03/31/anime-news-mononokehime-imax-boxoffice/

https://www.youtube.com/watch?v=I1dHzoRl0sQ

「400万ドルの興行収入」がどれぐらいかというと、1997年7月12日に公開された時の興行収入は201億8000万円で、当時『E.T.』(1982年)を抜いて、現在も日本歴代興行収入第1位なのです。アメリカではディズニーの子会社であるミラマックスが配給したことが話題になりました。劇場公開やホームメディアを通じて累計1億9430万ドルの収益を上げました。つまり、当時の売り上げを週末だけのIMAX上映だけで倍以上も上回ってしまったという現実があるのです。

IMAX 4Kでリマスターされた『もののけ姫』は、その美しさ評価が高く、週末興行収入推定額は、予想を上回る400万ドル(5.7億円)となり、北米興行収入ランキングで6位にランクインしました。上映スクリーン数はわずか330スクリーンで、1スクリーンあたり平均興行収入は12,134ドル(175万円)とこちらも全米トップ10でした。

参考までに2022年11月に愛知県長久手市の愛・地球博記念公園内にオープン開園した「ジブリパーク」の経済効果は年間来場者数は約180万人、経済波及効果は年間約480億円が予測されていました。ジブリパークの構想は2017年5月に愛知県とスタジオジブリの間で合意され、2005年の愛・地球博から17年、計画合意から5年をかけて開発されたものです。実際には予想を上回る来場者ペースで280万人ほどだそうです。入場料を平均して3,800円とすると、1週間あたりの直接収益は2億円。確かに遠方からの宿泊客などのお陰で経済効果は年間480億円という規模を超えるそうですが、その経済効果はスタジオジブリに直接入ってくる収益ではありませんね。
少なくとも「画風が真似できる」ということは世界観を表現できるということでもあり、日本IPが作り出した「世界観」と、その経済効果は作品を作ったスタジオだけでなく、舞台や応援する地域といった周辺の経済にも影響を及ぼします。「ジブリ風画像はAIで気軽に作れる」という認識や日本人側の理解は、ミームや雰囲気で流されるべきものはなく、「無料」でもなく、その数字、つまりパークの来場者数や実際のリマスター版の売り上げなどの経済効果としてきちんと数字を把握していくべき内容です。

https://www.pref.aichi.jp/uploaded/life/438876_1978771_misc.pdf

https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/488369.pdf

https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/488369.pdf

ところで、米国にも「ジブリ風AI画像ではしゃいでないで、IMAX見に行きなよ」という意見もしっかりあります。

I think everyone should go see Princess Mononoke in IMAX to combat this stupid AI crap https://t.co/IDl11ew8KQ

— LEX 🔜 HOME (@_larxene) March 28, 2025

「画風が真似できる」ということは世界観を表現できるということでもあり、法律上の「画風は著作権では守れない」という一点張りではなく、日本IPが作り出した「世界観」と、その経済効果は無視されるべきものではない、ということを認識すべきでしょう

以上が米国でジブリ風AI画像生成が起こしていた現象です。


中国化するアメリカと、開発を担う在米中国研究者

米国のAI業界では、画像生成AI開発の現場を担っているのは圧倒的に中国出身の研究者たち。古くは Bitcoinの研究者 Gwern氏 (@gwern)が 作ったアニメ風画像のデータセット「Danbooru2018」がNUS(シンガポール国立大学)経由で中国に渡り、その後は論文ベースでも以下のような系譜を辿っています。

 論文ベースの流れ:

  1. Danbooru(2005〜):原点となるアニメ・マンガ画像+タグの共有サイト

  2. Gwern(2019)Danbooru2018/2019を構築し、オープンデータとして整備、BigGAN・StyleGAN2などの画像生成基礎に。

  3. DeepDanbooru(Jing Yu Koh, 2019)CNNによるタグ分類の先駆け(学習にDanbooru使用)

  4. Liu et al. (2019) アニメキャラクター分類にCNN応用

  5. Zhang et al. (2020) タグクラスタリングと意味情報の強化

  6. Waifu2x(2015)高解像度化の先駆け。後に生成系へ影響

  7. Waifu Diffusion(2022) Danbooru系モデルをベースにStable Diffusionで学習

  8. NovelAI Diffusion(2022) 独自学習+Danbooruベース拡張モデル(非公開だが明言)

  9. Anything V3/V4(2022〜)Waifu Diffusion派生。ファン主導モデル開発

  10. MeinaMix / Counterfeit(2023〜)マッシュアップ&ファインチューニングにより強いスタイル固定

人種でくくるわけにはいきませんが、ビジョン系技術と「ACG」と呼ばれるアニメ・漫画・ゲーム関連の画像生成アルゴリズムにおける画風模倣の技術的精度において、WTO加盟2001年という背景や、日本のアニメや漫画が好きな方が多く、彼らの「ホビーや研究としての貢献」によるものが大きい、というのが過去の経緯になります。一方で、西海岸のビッグテックと中国Alibaba “Wan”、 Tencent “Hunyuan”が、米国や世界を舞台に毎週のように新しいモデルや機能で戦っており、日本としても無視できない状況です。


「日本だけが日本の著作権を気にしている」

日本では、2023年5月に行なわれたG7広島サミットで、国や分野を超えてますます顕著になってきた生成 AI の課題について評価する必要性が認識され、文化庁が「AIと著作権に関する考え方について」というテーマで文化審議会著作権分科会でディスカッションが2023年ごろから行われていました。
2024年3月15日には、法制度小委員会による言及が「公的文書」で明確になりました。。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hoseido/r05_05/

日本の文化庁が「依拠性」と「類似性」の二段階基準を明確に対外発信したのは、これが初めてです。Gemini 2.5 Deep Researchによると文化庁が著作権侵害の成立に類似性と依拠性の双方が必要であると明確に宣言していると特定できる最古の公式文書は、令和5年(2023年)7月付の「AIと著作権に関する考え方について(素案)」及び同年12月付(令和6年3月15日更新情報あり)の「AIと著作権に関する考え方について」で、これらの比較的新しい文書が、類似性・依拠性の原則自体は判例法理において「長らく確立されてきたものである」という前提に立脚しています。
※一方で、例えば昭和53年の依拠性に関する最高裁判決を受けて、その直後から昭和末期にかけて文化庁が発行したであろう著作権解説書や通達等で、これら二つの要件を同様の明確さで組み合わせて説明している具体的な文書は含まれていません。

これは生成AI時代において、著作権侵害の判断を明確化する上で重要な指針であり、国内の議論に影響を与える資料となりました。一方では、この方針は日本語のみで、国内の著作権理解に熱心な賢い方々だけに理解されている、というのが現状のようです。AICUでもパブリックコメントの実施などを紹介してきましたが、AI時代におけるクリエイター視点、特に世界のプレイヤーに対応できる新しい著作権の枠組みといった議論や、議員立法といった流れには至りませんでした。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/94037901_01.pdf

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/94037901_01.pdf

「デルタもん」を生成しながらAIと著作権の未来を考える

近年の事例だと、映画の盗撮の防止に関する法律が、議員立法により第166回国会において成立し、平成19年5月30日に平成19年法律第65号として公布され、平成19年8月30日から施行されました。著作権は産業やメディア技術の進化とともに見直され、比較的高頻度に行われているのです。

では、諸外国ではAIと著作権の関連はどう定義されているでしょうか? 先日、サンフランシスコの生成AIによる国際映画祭「Odyssey」の授賞式のセレモニーで、とあるアニメ風の画像が出せることを特徴としている画像生成AIモデルのスタートアップ企業の幹部とディスカッションする機会がありました。何というモデルかは伏せておきますが「ドラゴンボール」とか「孫悟空」とか「ピカチュウ」とプロンプトに打てば、そのキャラクターが生成されるような画像生成AIを想像してください。そこで、彼から『日本だけが“その著作権”を気にしている』といわれてしまいました。

▫️Project Odyssey - Season 2 データで見る、AI動画生成の現在。

確かに日本の弁護士でも、商標やキャラクター名称に依拠した画像を生成するサービスについては若干意見にブレがあります。以下が、日本・中国・米国におけるAI無断学習、依拠性、類似性に関する法的整理です。

■ 日本

  • 無断AI学習「合法」 著作権法第30条の4により、情報解析目的であれば無断利用可能

  • 依拠性「推定可能」出典や類似性を元に依拠があったと判断されることがある

  • 類似性「侵害となる可能性あり」表現が類似し、依拠があれば著作権侵害として扱われる

■ 中国

  • 無断AI学習「定義なし(グレー)」明確な条文はなく、状況次第で違法とされる可能性あり

  • 依拠性「明文化なし(判例ベース)」裁判所が依拠を認定した事例は存在

  • 類似性「近似で違法判定あり」視覚的に似ていれば侵害とされた判例あり

■ 米国

  • 無断AI学習「フェアユース(条件付き合法)」用途、変容性、収益影響などを総合的に判断

  • 依拠性「コモンローによる判断」意図・使用量・アクセス可能性などを含めた総合判断

  • 類似性「酷似+変容性低ければ違法の可能性あり」特に商用で明確に元ネタが想起される場合は厳しくなる

AI学習については「日本は圧倒的に緩やか」であり、そして類似性については米国や中国の方が厳しい。という現状で、「日本だけが日本の著作権を主張している」と言われる要素の一つがここにあります。さらに米国の場合はフェアユース、例えば学習や研究目的、公共性などがあれば許容される上に「コモンロー」、つまり判例が全てです。この場合は立法よりも司法の方が強い可能性があるのです。
日本では文化庁が依拠性と類似性を明確に切り分けた議論を2024年~2025年に行っている点が特徴的で、「依拠性があれば違法学習」と主張する構造は、他国より強調されがちですが、各国に浸透しているとは言い難いです。ここが「日本だけが日本の著作権を気にしている」と言われる2つ目の点です。
日本も米国においても著作権法では「スタイル」は保護されない、つまり「絵のタッチ」や「作風」「構図傾向」などはアイデア(Idea)として扱われ、保護対象とはなりません。このため、ジブリ風、ピクサー風といったスタイル模倣そのものは著作権侵害とみなされません。AIが生成された生成物が「実質的に類似(Substantial Similarity)」とされると、米国の判例法では、AI生成画像が既存の著作物と“実質的に似ている”かどうかが問われます。一方で、Image-to-Image (i2i)のアップロード時の複製権、公衆送信権、肖像権などもありますが、日本の文化庁は、i2iやLoRAといったAI画像生成における無断学習以前のアップロードの権利に目を向けているとは言い難いです。

さらに米国の著作権においては、フェアユース(Fair Use)という概念がとても強力です。クリエイティブ・コモンズのような著作権解決方法も可能です。日本では「商用利用」という概念に明確な定義がありません。
この分野の話では著作権が最も強力な権利を持つのですが、商標権による保護や解決も模索されています。トレードドレス(Trade Dress)やミスリーディング表示(False Designation of Origin)などの領域にも関係しています。最近では経産省が意匠法、商標法、不正競争防止法の視点から声優の声の無断利用についての見解を発表しています。

https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/chiteki_zaisan/fusei_kyoso/pdf/028_04_00.pdf

件のモデル開発者からは「ChatGPTのジブリ化(Ghiblification)以降、我々はあの品質を超えることを目標にしている」、「日本からも我々のモデルを使っている人が多くいる、そのデータはしっかりと押さえている」、「日本だけが日本の著作権を気にしている」と言われてしまったのですが、まさにその通りで、「ジブリ風」だけでなく、ドラゴンボールやガンダムといったIPのニュアンスの再現は、実効的に経済的な価値を持っています。
日本の著作権制度では、AIによる無断学習に対する制限は比較的緩やかであり、「依拠性」がある場合に限って違法となる可能性が示されています。これは2024年の文化庁の報告書で明確化され、世界的にも先行した対応といえます。
一方、米国ではフェアユースや判例法(コモンロー)による柔軟な判断が行われることが多く、スタイル模倣は著作権の対象外とされがちです。Substantial Similarityによる訴訟も、依拠性の立証よりも画像自体のアウトプット重視となる傾向にあります。
OpenAIの研究責任者が「ジブリ風画像」を公に投稿・活用した事例は、生成AIの出力が文化的IPに接近し、著作権・商標・パブリシティの境界を曖昧にしつつある現状を象徴しています。
先ほどの「もののけ姫」の売り上げにもあるように、依拠も経済的効果もあることは明確なのです。
もちろん「ChatGPTでジブリ化画像のタイムラインを眺めていたからIMAXを観に行きたくなった」という視点もあるでしょうし、逆に「ChatGPTで特定の画風を流行らせれば、それ自身が広告プロモーションになるのでは」と考える人もいるでしょう。実際、ChatGPT上では「コンテンツポリシー」が設定され、ジブリ風が生成できなくなった瞬間もありました。

著作権の「神殺し」にかける - 漫画村訴訟と「訴訟の価格」

件のサンフランシスコの生成AI企業はMAGA(Make America Great Again)派でした。ちょうど相互関税25%が設定されたタイミングで、時代錯誤な強権を提示することでかつてのフラット化された協調路線を破壊し、新たな秩序と利権を得るという発想です。
彼らに、かつて日本中のコンテンツホルダーを震撼させた「漫画村」訴訟について紹介してみました。2022年に提訴され、2024年4月に東京地方裁判所が判決を下した「漫画村」に関する損害賠償請求訴訟において、KADOKAWA、集英社、小学館の3社が、元運営者である星野路実氏に対して17億3664万2277円の支払いを命じられました。翻訳したWikipediaを読んで、彼は「結局のところは損害賠償金で幕引きされたんだね」と一言。しかも「18億円?この規模は僕らの集めた資金で解決できるレベルでは」という反応でした。「それに僕らがやらなくても、他の企業がやるよ。ジブリ化が儲かることはわかったからね」と、根本的な“抑止力”にはなっていないのが実態です。

米国著作権局長 シラ・パールマターの突然の解任

AI時代の著作権について調査論文を発表した、米国著作権局長 シラ・パールマターの突然の解任などはこの状況を明確に描いています。

「もののけ姫」に例えればジコ坊、ジバシリ、唐傘連といった「神殺し」をできる技術や資金力、組織力を持った著作権の「神殺し」を本気でやろうとしている方々の存在を感じました。
生成AIの時代においては、日本国内のお気持ち表明や法的解決だけでは不十分です。
実効力のある対話、具体的には訴訟の値段によって、彼らを抑制しなければならないのかもしれません。
私が知らないだけで、ChatGPTからスタジオジブリに示談がされているのであれば、それはそれで「いい話」だと思います。
しかし、そこはOpenにしていかねば、次から次へと海賊行為をはたらくプレイヤーが出てくるでしょう。
その価値を知られてしまったパンドラの箱はもう、閉じることはできません。


カリフォルニアでも真逆のロサンゼルス

同じ西海岸カリフォルニアでも、ロサンゼルスは違います。映画、音楽、美術、そしてIPによって支えられる経済圏として、生成AIによる画風模倣や“パチモン”カルチャーには非常にセンシティブです。
LAはハリウッドを中心に映画産業、音楽産業、そしてアートギャラリーやオークションまで、知的財産(IP)を「資産」として守ることが生き残りの鍵である地域です。俳優の声の合成、映像のDeepfake、音楽のサンプリングAIなどに関しては、業界団体(SAG-AFTRA=映画俳優組合、RIAA=アメリカレコード協会など)から強い規制圧力があり、既に法的措置に入っている事例もあります。これはStable Diffusionなどの「オープンソース文化」と真逆の地政学的状況です。

 DMCA(デジタルミレニアム著作権法)と「ディズニーの影」

ロサンゼルスのIP文化の厳格さは、1998年に施行されたDigital Millennium Copyright Act(DMCA)にも現れています。この法案が成立した背景には、ウォルト・ディズニー社の強力なロビー活動がありました。本来70年で消滅するはずの著作権保護期間が「ミッキーマウス延命法(Mickey Mouse Protection Act)」と揶揄されるほど延長され、企業によるIP囲い込みの象徴的な法整備になりました。1998年に著作権延長法(Copyright Term Extension Act)によって、個人の著作権保護期間は死後50年から70年に延長され、法人著作は75年から95年に延長されました。これは1928年公開の「蒸気船ウィリー」に代表される初期のミッキー著作権の保護延長のためと揶揄されました。2024年1月、ついに「蒸気船ウィリー」の映像部分が米国でパブリックドメイン入りをしました。ただし「現代のミッキー」のデザインやテーマパーク版、商標登録は依然として保護されています。これは今後の日本発IP(ジブリ、ドラゴンボール、ポケモンなど)にも影響する前例となりえます。ディズニーも最近はオープンなコミュニティ戦略に舵を切っている面もありますし、実際に筆者がロサンゼルスのアートイベント「The Brewery Art Walk 2025」に出展して生成AIアートを、日本の書家GOYOさんとコラボレーションして販売した際には、驚きと共感が集まりました。
ここでは、生成AIが単なる道具であることを超えて、「コンテキストアート」「コミュニケーションアート」として評価されていました。

▫️ロサンゼルスアート展示1日目 - 生成AIイラストレーションがコミュニケーションアートになった日

つまり、技術の自由と文化の保守がねじれ現象を起こしているのが現在のアメリカです。


リトルトーキョー2025に見る「市中で蹂躙される日本IP」

一方で、同じロサンゼルスのリトルトーキョーを歩いてみると、パチモンTシャツやピンバッジが路上に溢れ、安価な非ライセンス商品が溢れています。ガシャポンやフィギュア文化は健在ながらも「正規品は高いんです」という感想を聞きます。日本のIP産業は「高価な大人向けフィギュアしか作れない」というジレンマに直面しています。
この現実は、AIによる「ジブリ化」と合わせて、日本の著作権の“防衛力”そのものが試されていると言えます。

▫️リトルトーキョー2025に見る日本IP産業の現在

「ジブリ」だけじゃない「いらすとや」も…AIスタイル学習サービスすらも破壊される現状に打つ手はないのか

AI画像生成の類似性や依拠性による無断スタイル学習は「赤信号みんなで渡れば怖くない」というシンプルな話ではなさそうです。最近見かけた例がこちら。

8. Meme Poster

Prompt: 'Create a meme-style poster using IRASUTOYA illustration style. Theme: Monday morning mood, exhausted office worker.' pic.twitter.com/5vNsvNhGep

— Poonam Soni (@CodeByPoonam) May 12, 2025

Create a meme-style poster using IRASUTOYA illustration style. Theme: Monday morning mood, exhausted office worker.

このプロンプトを使うとこんな感じの画像が生成されました。

このような画像が生成できてしまうとなると、AIPicasso株式会社が運営する「AIいらすとや」や運営者の みふねたかし氏の努力も「なんだったの」という感じがしてしまいます。

我々はクリエイターと密に連携しています。データの提供に対する適切な報酬や、生成されたイラストに対する利益配分の仕組みを取り入れています。その一つの取組みとしてAIいらすとやがあります。AIいらすとやは、いらすとやを運営する、みふねたかしさんと約1年相談して画像とその説明文を学習に提供していただけることになりました。我々はそのような長期的な関係を築き、クリエイターの方々に信頼していただけるように努力を重ねています。

https://aipicasso.app/collection/emi

生成AIの世界は努力がOpenAIによって踏み躙られることがよくありますが、オープンソースや論文のように「巨人の肩に乗る」、もしくは森の枯葉の養分のように滋養となる存在ならまだわかりますが、無断スクレイピングと桁違いの演算基盤で殴られているだけではなく、明確に「IRASUTOYA」をタグにしていることがわかります。これは著作権だけではなく、商標権やアイデンティティはそれ以外の権利、例えば贋作を本物と偽って販売する行為は、AIスタイル学習サービスに対する優良誤認表示で景品表示法違反、という日本の法律で戦うこともできなくはないはずです。

他にも「初音ミク」、「ドラゴンボール」、「ワンピース」、「ガンダム」、「セーラームーン」などの商標、タイトル、登場人物など日本には防衛する技術や法律基盤が多数あります。AICUとしてはこの分野は専門で、世界で戦う技術を開発していく応援をしたい分野でもあります。


著作権は日本人の日本語のクリエイティブのためだけにあるのではない

著作権制度は、「日本の作品を日本で守る」ためだけにあるわけではありません。むしろ、世界に向けて日本の創作力と文化力を示し、対話するための武器でもあります。
浮世絵の歴史を振り返れば、それは一目瞭然です。
江戸時代の風俗を描いた「錦絵」は、絵師、彫り師、刷り師という三者の分業で高度なカラー印刷が実現されていました。その構図力、色彩感覚、レイアウト技術は、印象派や素朴派の画家たちに多大な影響を与えました。ピカソを評価したのがアルフレッド・ジャリであったように、アーティストを評価するのは常にアーティストです。
そして多くの日本人がその価値に気づかぬまま、作品は海を渡り、ボストン美術館の壁に飾られました。
浮世絵の影響を受け、支持した印象派・ポスト印象派画家は、クロード・モネ(Claude Monet)、エドガー・ドガ(Edgar Degas)、フィンセント・ファン・ゴッホ(Vincent van Gogh)、アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック(Henri de Toulouse-Lautrec)など浮世絵(特に広重)の構図や色使いに深く影響を受けた、モネは自宅に日本庭園と浮世絵コレクションを持ち、ゴッホは浮世絵の学習を行い、手紙の中でその革新性を絶賛。「ジャポニスム」の思想を推進しています。ロートレックはポスターアートや色面構成において、浮世絵の直接的影響を受けており、現代グラフィックにも通じる画風の開発です。

今、私たちが直面しているのは、それと似た構図です。
クリエイティブな分野に関わっている方々はその価値を理解しているのです。
だからこそ学習するし、使うのです。

では、我々に何ができるか。

OpenAIは依拠性や類似性に関する議論に応じるだけの対価支払能力と、証明できるエビデンス保持能力を持っています。GPUコストを払い、記録し、再現可能性のある設計で生成しています。

だからこそ、私たち日本は“技術”と“文化”の両面で、その正当性を主張することが可能なのです。証拠は揃っています。
漫画、レイアウト、アイデンティティのあるカラーコントロール、吹き出し──これらすべてが、動画生成AI時代において高い価値を持つことを、私たちは誰よりも知っているはずです。
これからも日本のIPや、日本IPを愛する人々は以下の点について主張していかねばなりません。
・技術で殴る:著作権保護の仕組みそのものを技術で支える
・エビデンスを残す:AIに何を学習させ、どう生成したかを記録・証明する責任インフラを明確にする。誰が最初に表現したのか、凄さを明文化する。できれば日本語以外でもわかるように。
・地域限定ルールを設ける:EUやカリフォルニアのように“ローカルな知財ルール”を柔軟に構築し、制御性を設けることで対話を可能にする。
・親著作権派の協力者と協力する
・新しい許諾システムを提案する:クリエイティブ・コモンズを超える明示的許諾システムの標準化

AI時代の「お気持ち表明」フェーズに突入している

結論として、生成AIが模倣する“スタイル”それ自体に違法性はありません。しかし、それを「許すか否か」はステークホルダーの意思に委ねられており、日本の同人文化の中に存在してきた“空気のような規範”を再定義する時代に来ています。
明らかに著作権の「神殺し」をやろうとしているカルフォルニア北部、そしてその反対勢力である南部との戦いが、海を超えてネットを通してみる我々には「よく見えない」という現状でしょう。
しかし「ChatGPTが『似ているからアウト』なのではない、『権利者が沈黙していること』──それがすでにひとつの答えだ」「日本からも(依拠性モデルを)使っている人たちはたくさんいるよ」「結局、正しいことを突き通しても儲かるのはこっち」、そういった主張を「なるほど、なるほど」と聞いてきました。
どちらの意見も平らに聞きつつも、この現実において、日本の著作権制度や日本の著作を愛する方々はどう向き合うのか。国として、作家として、市民として──“文化の未来”に知性で立ち向かう必要があるのではないでしょうか。
ジブリ鈴木プロデューサーの「常識の範囲でご自由にお使いください」というフェアユース画像の提示は大変賢い方法だったのですが、AI時代のお気持ち表明フェーズにおいては「常識の範囲」が変わっています。

日本はもっと怒っていい、ただし英語で。

筆者自身は子供でもわかるような話として、
・誰が迷惑しているのか
・白黒つけたほうがいい
・AI時代の著作権解決技術、コピーライトではなく、新たな著作権のフレームを提案すべき
と考えています。

筆者の経営する「つくる人をつくる」をビジョンにする日米AIメディア企業「AICU」では書籍「画像・動画生成AI ComfyUI マスターガイド」の発行にあわせて倫理ガイドライン「生成AIクリエイター仕草(v.2025)」をアップデートしました。

https://note.com/aicu/n/n6eb9982edb00

コーポレートサイト https://corp.aicu.ai/ja-jp/shigusa

英語版 https://corp.aicu.ai/shigusa

著作権の「神殺し」をみすみす放っておくわけには行きません。今後もこの問題については世界と対話していきたいと考えています。皆さんの意見をお寄せください。 この記事のコメント欄や X@AICUai でも構いません。

この話題は、AICUマガジン Vol.12「AI Manga Revolution(仮)」とVol.13「The World of AI」でも扱っていきます。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
これからもAICUをよろしくお願いいたします。

Akihiko Shirai

白井暁彦/しらいはかせ/AICU CEO。東京工業大学 知能システム科学 博士(工学) 。デジタルハリウッド大学大学院客員教授。メタバースR&D開発、VRエンタテインメントシステム、メディアアート研究、写真工学、画像工学、触覚技術、GPU応用、多重化ディスプレイ、体験の物理評価、国際連携を専門に画像生成の研究開発で30年近い経験を持つ博士(工学)。 日本バーチャルリアリティ学会 IVRC実行委員会、フランスLaval Virtual評議員、芸術科学会副会長。Hacker作家。インプレス「窓の杜」にて「生成AIストリーム」連載中。 2018年よりグリーグループ「GREE VR Studio Laboratory」にてREALITYに代表されるメタバースの未来開発を担当。数多くのメタバースにおけるUX知財を生み出してきただけでなく、子供向けワークショップ開発や先端研究を通したイノベーション型人材の育成、VTuber時代のクリエイター・ライブプレイヤーとして世界に向けた発信活動を行っている。 2023年より「つくる人をつくる」をビジョンにデジタルハリウッド大学発 米国スタートアップ企業「AICU Inc.」CEO就任。日米でクリエイティブAIコミュニケーションメディアを開発・発信しているする。 【著書】 「WiiRemoteプログラミング」(オーム社、共著)、「白井博士の未来のゲームデザイン ―エンターテインメントシステムの科学―」(ワークスコーポレーション)、「AIとコラボして神絵師になる 論文から読み解くStable Diffusion」(インプレス)、最新刊「画像生成AI Stable Diffusion スタートガイド」(ソフトバンククリエイティブ) 窓の杜「生成AIストリーム」連載中 https://j.aicu.ai/AIStream 【論文】 「床面提示型触覚エンタテイメントシステムの提案と開発」東京工業大学 第1535076号 平成16年3月26日「エンタテイメントシステム」芸術科学会(2004年) 全リスト https://researchmap.jp/akihiko/published_papers

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